表題番号:2006B-067 日付:2007/03/23
研究課題米国のアジア系コミュニティにおける「オリエンタル」なるものへの眼差しの研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 小林 富久子
研究成果概要
 本年の研究活動で最も特筆すべきは、3度の海外出張を通して表記の研究課題に関して多くの有益な資料を集めたり、現地の研究者たちと刺激的な意見を交換しえたことである。まず5月末には、中国の北京外国語大学で行われたアジア系アメリカ文学会に参加し、そこで集中的にアジア系に関する研究発表を聞くことができた。中国で行われただけあって中国系文学関係の発表が充実していたが、かなりの数が映画におけるアジア人表象を扱っており、中には最近の韓流ドラマや映画に関するものもかなりあり、興味深かった。近年はアジア内で完結する映画やドラマによる文化圏のようなものが形成されており、それが従来の西洋白人の側からのオリエンタリズム的アジア人への眼差しにどう影響するかは、興味深い問題である。
 次いで12月には、フィラデルフィアで行われた全米言語学会(MLA)大会に円地文子と三島由紀夫に関する研究発表を行うことを第一の目的として参加した。私が一員であったパネルは、アジア文化における性の越境をテーマとするもので、パネリストの一人で現在アメリカの大学で教えている台湾出身の女性研究者はいまだアメリカなどではよく知られてはいないが、まさに越境の問題を扱うには格好の存在として満州映画のスターとして一世を風靡した山口淑子を扱い、刺激的な論を展開した。昨今の傾向として、植民地における表象の問題を扱うものが多いようだが、これも移動と越境の時代の賜物ともみられ、当然ながらアジア系がもはや単一の人種や民族の文化に収斂されない何層もの文化を背後に担う存在であることが確認された。これは、これまでの西洋人たちによる単純化されたステレオタイプ的見方を覆すことにも繋がるだろう。
 最後に3月初めの一週間には、カリフォルニアのロサンゼルスに一週間滞在し、主にUCLAのアジア系研究者たちと有益な意見や情報交換をすることができた。バークレーと並んでアジア系研究のメッカであるUCLAにはアジア系の有力な教授が多く、その中心的存在であるキンコク・チャン教授は、アジア系の新旧のステレオタイプを調べているという私のために、授業を特別に開放し、学生たちにこの問題を語リ会うよう仕向けてくれた。中で面白かったのは、アジア系というと今でも「数学が得意」とみらわれることで、文学を特に学んでいるというと、どこかおかしいのではないかと思われるなどといっていたこと。この他、より若手のレイチェル・リー助教授からは、新しい日系文化のメッカとして、リトル東京ならぬ、ソウテル地区に行くよういわれ、そこで日本のアニメや漫画などいわゆるオタク的文化を扱う「ジャイアント・ロボット」と呼ばれる店が、一部のアメリカの若者の間でも人気を博していることを知った。日本人=ロボット、アニメといった新しいステレオタイプの形成にも関わるものとして今後も注意する価値があると考えた次第だ。