表題番号:2006B-052
日付:2007/11/05
研究課題漢字単語と仮名単語の意味検索における形態隣接語の効果
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 文学学術院 | 助教授 | 日野 泰志 |
- 研究成果概要
- Finkbeiner, Forster, Nicol & Nakamura (2004)は、意味的に関連のある意味少数プライムと意味多数ターゲットからなる英単語ペアー及び意味多数プライムと意味少数ターゲットからなる英単語ペアーを使って、語彙判断課題におけるマスク下の意味的プライミング効果の大きさを比較した。その結果、有意なプライミング効果は、意味多数プライム-意味少数ターゲット・ペアーのみに観察された。この結果から、Finkbeinerらは、マスク下の意味的プライミング効果の大きさは、プライムにより活性化されるターゲットの意味数に依存すると仮定するセンス・モデルを提案した。しかし、彼らが実験で使用した2種類の単語ペアーを詳しく分析すると、意味数ばかりでなく、ターゲットの出現頻度、語長、形態隣接語数などにも違いが認められた。そのため、彼らのデータのみを根拠に、意味的プライミング効果の大きさがプライムにより活性化されるターゲットの意味数に依存すると結論付けるのは難しいようである。
そこで、Finkbeinerらのモデルの妥当性を再検討するために、漢字表記語と仮名表記語とを使って出現頻度、語長、形態隣接語数を統制し、プライムとターゲットが持つ意味数のみを操作した上で、意味少数プライム-意味多数ターゲット・ペアーと意味多数プライム-意味少数ターゲット・ペアーそれぞれの意味的プライミング効果の大きさを語彙判断課題を使って比較した。
その結果、Finkbeinerらのモデルからの予測に反して、意味少数プライム-意味多数ターゲット・ペアーに観察されたプライミング効果の方が、意味多数プライム-意味少数ターゲット・ペアーに観察された効果よりも大きかった。さらに、このデータを詳細に分析したところ、意味的プライミング効果の大きさは、プライムの形態隣接語とターゲットとの間の関連性の程度に依存して決定されることが明らかとなった。ターゲットの意味数が多いと、どれかの意味がプライムの形態隣接語と関連を持つ確率が高くなる。その結果、意味少数プライム-意味多数ターゲット・ペアーに大きなプライミング効果が観察されたものと考えられる。さらに、本研究で使用した単語ペアーの多くは、漢字表記語をプライムとして使用していた。漢字は形態素であるため、文字の共有は意味の共有を意味する。したがって、形態隣接語同士が意味を共有する確率が高く、プライムの形態隣接語がターゲットと意味的関連性を持つ確率も高くなった可能性がある。これらの結果をもとに、マスク下の意味的プライミング効果の発生メカニズムについて考察した。