表題番号:2006B-046 日付:2009/11/17
研究課題近世フランスのジャーナリズムと公論形成に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 森原 隆
研究成果概要
 近世フランスにおける新聞・雑誌を核にしたジャーナリズム形成の問題を歴史的なパースペクティヴの
下で捉え直し、とくに革命前の1770年代から80年代における政治情報や政治報道とジャーナリズムの形成
の問題を中心に、定期刊行物の普及・流通とジャーナリズム形成の問題、そしてジャーナリズム形成と
「公論」「公共性」「公共空間」の関係に焦点をあてて検討した。このケーススタディとしてフランス最
初の新聞である『ガゼット』 Gazette、と文芸誌『メルキュール』 Mercure de France の二誌を中心にし
たジャーナリズムとこれに関わるジャーナリストたちの活動を通史的に捉えた。 とりわけ研究期間内に
おいては、1780年代の外務大臣ヴェルジェンヌの時代の政治情報やジャーナリズムの状況を考察した。
ヴェルジェンヌに関して、わが国には、これを真正面から論じた研究がなく、彼の政策の新たな側面を照
射した。また「ジュルナル・ポリティーク」をキー概念とする『メルキュール』誌と、同時期の『ガゼッ
ト』紙の記事の比較的な検討を詳細に行った。これに関する研究史料調査、情報交換を京都大学等で実施
した。ルイ16世が即位した1774年以降、フランスのジャーナリズムに明確な変化が現れたが、この時期の
ジャーナリズムが近代的なジャーナリズムの理念にどの程度合致するかどうか、革命期のそれとの連続性、
断絶性についての論議を展開した。
 近年政治思想史や他の分野からも注目されている「公論」、「公共空間」の問題を理論的、理念的に進
めると共に、実証的な見地から17、18世紀のフランス史の政治史的な流れの中でこの検証が可能かどうか
の分析を進めた。J・ハーバーマスや近年のK・ベイカーの議論をふまえて、こうした研究視角の可能性
や有効性について検討を加えた。フランス啓蒙専制主義の本質に関わる問題にも焦点をあて、これらを政
治文化史的観点から検討した。 このような、近代的な市民的「公共性」が、中・近世ヨーロッパ史にお
ける「公共善」「公共の福利」理念、古代ギリシャ以来の「レス・プブリカ」res publica 理念といかな
る関係にあるのか、さらに現代政治学的な「公共性」とどう繋がってゆくのかを問うことが今後の課題である。