表題番号:2006B-034 日付:2007/03/25
研究課題現代遍路の意識と行動に関する調査研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 坂田 正顕
(連携研究者) 文学学術院 教授 長田攻一
研究成果概要
 本研究では、現代遍路の意識と行動について、遍路者のパースプティブから、できうる限りインテンシブかつ体系的に把握するために、1996年にわれわれが実施した大量観察(早稲田大学道空間研究会『四国遍路と遍路道に関する意識調査』、1997年)における対象者の中から、関東在住の遍路を抽出し、その中から、さらに有意抽出した対象者15名に対して追跡的にインタビュー調査を実施した。96年に遍路行に赴いた者について、①当時の状況を遡及的に質的に深く解明すること、と同時に、②その後の巡礼経験の経緯について現状を把握することにより、この10年間ほどの遍路の意識と行動の推移を質的に検証することを目的とした。調査結果の主な知見は以下のとおりである。
 ①の遡及的解明に関しては、96年統計調査の留め置き自記式の調査票ではフォローできなかった細部の諸次元(遍路行の仔細に関する次元はもとより、遍路動機の背景、宗教的背景、生活背景、家族構成、職業経歴などの問題から、人生観、価値観、巡礼観などにいたる諸次元まで)についての当人の意味づけや行動仔細が明らかとなった。概して、多様な生活背景を持っている遍路対象者たちであるが、96年当時の遍路に赴く「非宗教的」エレメントに関する当人たちの多様な意味づけの中にも、従来の伝統的な宗教的エレメントに接合しうる契機が多数見受けられたことが、今後検討すべき問題としてクローズアップされた。
 ②のその後の巡礼経験に関しては、大半の巡礼者が、四国遍路のリピートもしくは他巡礼の経験を重ねている様子が強く浮き彫りにされた。このことは、リピートを誘発するような四国遍路の特殊性に関する問題と、スピリテュアルな次元におけるグローバル化に伴う国内外における「巡礼市場」成立の問題を提起している。四国遍路のリピートに関しては、その地域社会、歴史、自然、巡礼システムなどの四国遍路固有の客観的なファクターに加えて、当事者の個別的事情が深く関係していると思われるが、遍路ピートの問題を今後深く掘り下げてゆく必要があるだろう。他方、巡礼市場成立の問題は、レファランス・パラダイムをグローバルに捉える必要性が高まっていることを示唆している。実際、国内巡礼のみならず、スペインのサンチャゴ巡礼にまで赴く対象者が少なからずいたことが判明したが、このことは、今後の巡礼文化の動向を見定める上で、重要な視点を投げかけていると思われる。いわば、複数の巡礼の道が相互に交わりつつある動向が巡礼者の内面からも見出されたのである。その背景の一因として、グローバルな規模でのツーリズムの深化の問題も関連していることが示唆された。