表題番号:2006B-030 日付:2007/04/03
研究課題環太平洋地域における社会の複雑化に関する比較考古学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 菊池 徹夫
(連携研究者) 文学学術院 教授 高橋 龍三郎
研究成果概要
 本年度は、残念ながら科学研究費補助金は得られなかったが、前年度より継続する「環太平洋地域文化研究会」を年数回にわたり開催し、研究組織に属する研究者間で情報交換に努めるとともに、まことに幸いに、特定課題研究助成費を与えられたので、今後の科研による研究に向けた着実な調査を実施することができた。
 菊池は役職上、また新学部準備の作業に忙殺されたが、韓国および日本国内において、本研究課題に即した予備的、補足的な調査研究を行った。まず、網走市で行われたシンポジウム「アイヌ文化の前史としてのオホーツク文化とその周辺」に参加し、道立北方民族博物館に於いて、調査研究を行い、また多くの研究者と活発に情報交換を行った。11月には、札幌市および余市町において主として環北太平洋地域の特徴的文化の一つである岩画の問題について研究を行った。2月には紋別市で行われた「第13回氷海の民シンポジウム――ヒグマと人間の関わり――」に学術顧問として参加し、環北太平洋各地に棲息し、古くから人類と関わってきた森林動物の代表たるヒグマをめぐって大いに知見を広め、さらには人間による自然破壊や地球温暖化の問題まで議論を深めた。さらに札幌を訪れ、開拓記念館を中心に資料調査と意見交換を行った。そして3月に韓国のソウル特別区に赴き、3年前にオープンした広大な韓国国立中央博物館に於いて調査研究を行い、漢江南岸の夢窓洞遺跡、風納土城などを時間の許す限り探訪し、大いに知見を広めることが出来た。
 一方、高橋は、環太平洋地域をめぐる文化・社会の複雑化過程を探り、民族誌の採集と「社会階層化過程」の理論的解明を目指して2週間(8月5日~8月19日)にわたり、パプア・ニューギニアのミルンベイ地方において民族誌調査を実施した。そこでは地域社会の親族構造や血縁組織、出自システムなどをまず押さえ、引き続いて農耕や漁労などの生業関係を調査した。同地域のヤバム島やイースト・ケープでは、主に伝統産業である土器生産と、生業の実態、親族組織、出自システムとの関連についての調査を行った。特に母系制社会における土器製作技術の継承と配布関係について、良好な事例を調査することができた。調査には、私のほかに本学非常勤講師1名と考古学専攻の大学院生2名、学部学生1名、東京大学大学院博士課程1名が参加した。イースト・ケープとヤバム島の2箇所に分住して、それぞれの区域で、GPS装置で正確な位置を計測しながら、村の家屋配置や親族組織、土器製作者の血縁的な系譜関係、土器製作における技術的継承関係などについて調査し、母系制社会における複雑な血縁の系譜関係や、土器製作者の伝統的技術の系譜と親子関係、交友関係など、土器製作に関与する技術的要因を知ることによって、型式が成立する社会的背景を把握することがでた。なお、その研究成果は10月7、8日の「縄文社会をめぐるシンポジウム Ⅳ」において一部を発表した。また昨年度の研究活動成果を『史観』第156冊で発表した。