表題番号:2006B-029 日付:2007/04/30
研究課題現代都市の道空間の公共性に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 長田 攻一
(連携研究者) 文学学術院 教授 坂田 正顕
(連携研究者) 山陽学園短期大学 キャリアデザイン学科 教授 関 三雄
研究成果概要
道空間研究所の研究の一環として、道空間の「公共性」という特質に注目し、都市街路を中心にその現代的特質を明らかにすることを目的とした研究を開始したいと考え、2006年度科学研究費を念頭において研究計画を立てて応募した。科学研究費の応募は残念ながら不採用となったが、早稲田大学特定課題研究としてその端緒を開くことができることになった。そこで、交付された予算の枠内で科研費の計画を再検討し、文献調査を基本として、公共性論一般についての知見を整理し、それを踏まえて、「道空間」という特殊な空間における公共性の意味に迫るための方法を探ることを2006年度の課題とした。
従来の公共性研究は、「公共性」の特質を、私的に対する「公的」、「共通性」、「公開性」、「社会的有用性」、「社会的共同性」などの多様な側面から明らかにし、それら相互の関係に注目してきた。それら従来の研究に特徴的なことは、どちらかといえば対等な個人間の討議空間として理念的に公共性を捉えようとする傾向が強く、さまざまな公共財の特質に関してもそれらの理念とのかかわりがつねに念頭に置かれているといえよう。しかしながら、本研究では、理念的な「公共性」概念によって規制される公共空間に先行するような、異質な目的をもった異質な人びとの行き交う場としての道空間における自然発生的に生成される本来的「混在状況」に注目したい。現代社会における道空間は、自然体としての人間、動物、さらにはテクノロジーの成果物としての自動車などの交錯する空間である。そのようないわば社会性の欠如した空間のなかからどのように公共的秩序が生成され維持されるようになるのか、また、そのような公共性は基本的にどのような特質を有するのか、あるいはそれが社会秩序全体のなかで組織や地域集団などの社会秩序とどのように関わりあっているのかなどを探ることが重要となる。
そこで、これまでの研究成果をできるかぎり有効に役立てるために、2006年度は文研調査の他に、四国遍路道を実際に歩いた経験のある人びとに、その経験内容についての詳細なインタビューを行うことを具体的な課題とした。その結果、現代における市街地ばかりでなくさまざまな形態の道を、雑多の人びとや車が行き交うなかを、ひたすら歩くという経験を通して看取できるような、道空間本来の開放性、混在性、境界性、危険性など、いくつかの前公共的特質があることが確認された。それは、異質なもの同士が余儀なくされる社会性ゼロの前公共性である。このような仮説的な知見に基づいて、人と車という物理的存在に限定されない、自然と人工、動物と人間、多様かつ異質な社会・文化的存在としての人間を許容する道空間の特殊性に迫ることにより、改めて近代以降の公共財としての道路の成立過程とその問題点を明らかにしていくような研究への道が開かれるように思われる。機会があれば道空間の公共性の意味の歴史的変遷を明らかにするような調査研究へと発展させていきたい。