表題番号:2006B-027 日付:2007/03/05
研究課題乳幼児の共同注意の発現過程
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 大薮 泰
研究成果概要
 子どもの共同注意行動に対する母親の抱き効果を検討した。早稲田大学文学学術院の発達研究室において、母子のやり取りを統制しない条件(研究1)と母親が子どもの注意を誘導する条件(研究2)を設定した。研究1では、母子の複数の課題遊び場面で自然に発生した「抱き場面」と「非抱き場面」を無作為に抽出し、子どもが見せる共同注意行動を3種類に分類して分析した。κ係数は抱き場面が0.71、非抱き場面が0.75であった。対象母子は、9か月児群、12か月児群、15か月児群ともに13組、計39組であった。その結果、抱き場面では非抱き場面と比べて、共同注意をしない時間が長く、母親の顔を見て意図を共有しようとする共同注意が少なかった。月齢を比較すると、抱き場面では、9か月から12か月にかけて共同注意時間が2倍近く増加した。9か月児は、抱かれると共同注意をしにくい時期であることが示唆された。研究2では、母子の遊び場面で、抱いて子どもの注意を誘導する条件と抱かずに注意を誘導する条件を設けて、共同注意に対する抱き効果を検討した。対象母子は、9か月児群7組、12か月児群9組、15か月児群5組の計21組であった。その結果、非抱き場面では、研究1の場合と比較すると、注意誘導条件では共同注意時間がほぼ半減した。すなわち、身体接触をせずに子どもの注意を誘導しようとすると、共同注意の時間が短くなる可能性が示唆された。しかし、抱き場面では、研究1の場合と比較して共同注意の時間に変化がなかった。それゆえ、抱かれた場合は共同注意時間が少なくなることがなく、抱きには乳児の共同注意行動を支える働きがあることが推測される。また、抱き場面では、生後9か月から12か月にかけて共同注意時間が長くなる傾向が見られた。研究1でも同様の傾向が見られている。従って、9か月児と比較して12か月児の場合には、抱かれた姿勢で母親の注意方向を検出するスキルが向上し、母親の視線方向と同じ方向に視線を向けて対象物を共有しやすくなる可能性が示唆された。