表題番号:2006B-001 日付:2007/03/21
研究課題行政立法の司法審査―行政訴訟における処分性の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 大濱 啓吉
研究成果概要
2001年に司法改革推進法が成立し、各種の司法改革が法律案として国会に提出され具体化されてきた。本研究の対象である行政訴訟制度も、1962年に行政事件訴訟法が制定されて以来、42年ぶりの大改正がなされた。①国民の権利利益救済範囲の拡大、②審理の充実・促進、③行政訴訟をより利用しやすく、分かりやすくするための仕組みの構築、④仮の救済制度の整備とういう4本の柱を立て、制度改革が行われた。しかし、訴訟要件論のうち、原告適格については9条2項を設けて、原告適格の拡大を図ったが、もう一つの重要な要件である『処分性』については、何らの手も加えられなかった。処分性(3条2項)の問題が現行法上、多くの問題を抱えているのにも関わらず、何一つ改正されなかったのである。本研究の出発点は、そこにある。具体的には、行政立法、行政計画、事実行為等が主要な論点であるが、本研究では主として行政立法に的を絞った。
 ところで、行政立法とは、行政の行う立法のことである。立法とは国民の権利義務に影響を与える一般的抽象的規範のことをいう。憲法41条は、国会が「唯一の立法機関である」と定めている。従って、行政は原則として立法を行えないのであるが、法律が明確な基準を定めて行政に委任した場合には、例外的に許される。これを「委任立法禁止の原則」という。以上は憲法レベルの問題であるが、他方、行政法レベルでは、ある立法が私人の権利利益を侵害するのではないかが問われることがある。例えば区立小学校を廃止する条例、外形標準課税を定める条例、あるいは医療費値上げの職権告示などは、個人に対して向けられた処分ではないので、従来の判例は処分性なしとしてきた。私は、これらをすべて一律に処分性がないとするべきでないことを論証することを試みた。また、行政立法については、2005年に行政手続法の中で「命令等を定める手続」として「意見公募手続」の規定が追加された。手続的規定の追加は、行政立法の司法審査に一定の影響を与えずにはいない。
 通説・判例は取消訴訟を公定力排除の手続であると理解し、処分性の根拠規定である行訴法3条2項を「行政庁の処分」と「その他公権力の行使」は実質的に変わらないと解釈している。私の本研究によれば、第一に、取消訴訟を公定力排除訴訟と考えるべきではない。つまり、伝統的公定力概念を否定し、処分性を取消訴訟の排他的という手続的な観点に純化して解釈する。第二に、「処分」と「その他公権力の行使」を別個の概念として解釈する。そして取消訴訟の排他性が妥当するのは前者だけであり、後者の『公権力の行使≫に該当するものについては、取消訴訟以外の訴訟、具体的には当事者訴訟や民事訴訟法で争うことも可能だと論ずる。これは、従来誰も主張したことのない新しい見解であり、国民の権利利益の保障に厚い結果を導くものであり、憲法の法の支配の原理に適う解釈であると信ずる。