表題番号:2006A-938 日付:2011/05/24
研究課題イタリア産業集積地域におけるネットワーク形成に関する実態調査研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 本木 弘悌
研究成果概要
 本研究はイタリアの産業集積地において実態調査を行うことにより、いわゆる産地の形成過程をネットワークの構築に着目して明らかにしようとした。地域産業の持続的成長のためにはイノベーションが必要であり、このことが指摘されながらもイノベーションの形成過程を明らかにした実態調査研究は形成過程の検証が難しく、困難なものとされてきた。そこで本研究では、産業集積地域におけるイノベーションがどのようなプロセスで形成されるのか、資本蓄積の異なるイタリアにて実態調査を行うことにより、日本国内の調査研究では困難であったイノベーションの形成過程分析を行い、日本の産業集積研究に新たな視点を提示することを目的とした。
 現地実態調査によって、次のことが明らかになった。イタリアの多くの産業集積地は中小企業形態の家族的経営による企業が多く、それら中小企業のネットワークが地域的に完結して産業集積を支えている。集積地の拡大成長期にはこうしたネットワークの形成は、コストパフォーマンスを発揮して、合理的に機能した。しかし、縮小調整期には新たなイノベーションとネットワークの形成が求められ、家族的経営から派生するネットワークは、イノベーションを生む要因としては機能しなくなった。この段階におけるイノベーションには外部知識の導入が不可欠と考えられるが、家族的経営に依存する中小企業においては地域外から導入される外部知識には排他的な傾向をみせた。つまり、企業家が個人的に構築してきた生産ネットワークは、イノベーションの創出機会においては阻害要因となったのである。今日、縮小調整期を乗り越えた企業に共通することは、家業的経営から企業的経営への転換したことにより外部知識の導入を図り、イノベーションを創出できた企業であることが明らかになった。
 翻って日本の産業集積地にこの成果を照らし合わせると、日本の産業集積地における中小企業の経営形態は、イタリアと同様に家族的経営に依存する企業が多く、イノベーションが創出されにくいことを指摘できる。