表題番号:2006A-933 日付:2008/06/25
研究課題「人間の安全保障」論における人権・人道問題と国際開発課題への統合的なアプローチに関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 大学院アジア太平洋研究科 助教授 勝間 靖
研究成果概要
 本研究では、まず、開発の理論と実践において人権が注目されるようになった理由を、三つの視角から解明した。第1に、社会開発が重視されるようになり、基礎的な社会サービスへのアクセスこそが国際社会が達成すべきミレニアム開発目標だとされるようになった。第2に、国際法の分野において、「発展の権利」が近年に再び注目を浴び、その法理論を開発の政策と実践へ結びつける動きがある。そして、第3に、国連システム改革の文脈のなかで、開発において人権を主流化させる機運が高まっている。これらの三つの視角は、いわば国際開発論、国際人権論、国連改革論という異なる分野から、社会開発と人権との関係を見る視角だと言い換えることもできる。そして、それぞれに人権アプローチを採ろうとする。以上のような三つの視角から見ると、人権アプローチは、何らかの付加価値がある新しい知見をもたらそうとしているのだろうか?本研究では、以下の4点から、人権アプローチは私たちに何らかのパラダイム転換を迫っていることを示した。
(1)「発展の権利」による社会開発と人権との結合
「発展の権利」は、自由権的人権と社会権的人権とを統合する包括的な人権アプローチである。そこでは、発展または開発とは人権そのものと捉えられる。つまり、社会開発には国際的に普遍性のある規範が付与されるようになった。その考え方が開発政策の形で具体化されたものとして、『国連ミレニアム宣言』とミレニアム開発目標とを位置づけていいのではないか。
(2)国連開発における人権の主流化
グローバルなレベルでは国連開発グループを通して、それぞれの途上国においては国連開発援助枠組みというメカニズムを通して、開発における人権の主流化が進展している。その過程において、国連人権高等弁務官が重要な役割を果たしてきた。人権を侵害するような開発は論外なのは当然であるが、さらに踏み込んで、人権を実現するための手段として開発を捉える考え方が強くなってきた。
(3)基礎的社会サービスへの権利 vs ニーズ
人権アプローチにおいては、基本ニーズ・アプローチと違い、子どもの生存・発達・参加などを権利として捉えたうえで、その権利の実現について義務を負う主体を想定している。そこでの考え方は、ニーズは満たされるものであるが、権利は普遍的に実現されるべき、というものである。その結果、「非差別」の原則からみて、格差を拡大するような開発協力は許容されないと同時に、最も脆弱な人びとのエンパワーメントを目指した支援を優先させなければならない。
(4)人間の安全保障
これまで国家が自国の国民の安全を保障するという考え方が主流であった。しかし、グローバル化する子どもの性的搾取の問題や、ルワンダにおけるジェノサイドなど、国家安全保障の考え方では対応できない事象が多く認識されるようになってきた。こうした潮流において主張されるようになってきたのが「人間の安全保障」という考え方であり、国家が安全を保障できない場合には、国際社会がエンパワーメントと保護の観点から対応するように迫っている。その際、社会的「弱者」の保護へ向けての人道支援のほか、人権アプローチが有力な視点の一つとして浮上してくる。