表題番号:2006A-906 日付:2007/04/09
研究課題世界遺産「サンティアゴ巡礼路」の社会的用法に関する基礎的研究―地域文化の担い手としてのアソシエーションからのアプローチ―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 専任講師 竹中 宏子
研究成果概要
 本研究は、スペインのサンティアゴ巡礼路に関して文化活動を展開するアソシエーション(「サンティアゴ巡礼路・ガリシア友の会」および「スペイン・サンティアゴ巡礼路友の会連盟」)を対象に、「団体としての活動」と「構成員個々人の生活」との関係性の把握を試みたものである。そのため、1)各団体の沿革を調査し、2)次いで、可能な限り構成員の日常生活に関する聞き取りを行った。
1)「サンティアゴ巡礼路・ガリシア友の会」の沿革に関しては基本的に直接インタヴューで把握し、その他、彼らから提供された会誌なども参考にした。「スペイン・サンティアゴ巡礼路友の会連盟」の沿革については、主に創立当初からの会誌を参考にした。そこから、前者は、その成立に創立者のサンティアゴ巡礼に対する強い想いがみとめられた。後者は、個人の想いというよりも、むしろ、1975年のUNESCOの勧告および地域活性化を目論む地方政府の意図が強くみとめられた。ただし大枠として、これまで報告者が研究してきた文化活動を展開する他種のアソシエーションとそれほど変わらない構成、活動内容、団体維持の仕方を有していることもわかった。
2)構成員個々人の生活に関しては、主に「サンティアゴ巡礼路・ガリシア友の会」の会員に対して調査を行った。その結果、ほぼ全員が地域社会で仕事と家庭を持ち、ほとんどが高学歴を有している人物であることがわかった。注目すべきは、個人的に思い入れがあるサンティアゴ巡礼スピリットのプロモーションと巡礼路の維持・整備という活動が、家族と共に行われている点であり、収入を得るための仕事や他の趣味との関係の弊害とはならない点である。つまり、特に中心的に活動している人物は、会議などで時間を割くことがあるものの、事務的にならず、多くの場合、遠足や食事会が同時に設定されているように(ガリシア州内で常に会議の場所が変わる)、娯楽的要素が大いに盛り込まれているのである。こうした「肩の力を抜いた」活動が基になって、サンティアゴ巡礼路は原型を留め、地域のシンボルおよび世界遺産として維持されているのである。
これまで文化を支える活動というと、その活動のみに従事している側面ばかり強調されてきたが、本研究では、日々の生計や家庭生活を維持しながら遺産を守る人びとの現実を提示できたと思う。先に述べたとおり団体としてはどのアソシエーションのあり方も変わらないものの、構成員を細かく見ていくと、内実に変化が見られ、それが今日のアソシエーションの紐帯を特徴付けているのだと考えられる。本研究は、スペインにおけるアソシエーション像と遺産を把握するには未だ不完全ではあるが、基礎的研究としては目標に達したと考えている。