表題番号:2006A-861 日付:2013/03/04
研究課題東アジア地域における対流圏大気化学観測タワーとして富士山を利用するための基礎研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 助教授 大河内 博
研究成果概要
富士山は孤立した高峰であり,4000m近い高さの観測用鉄塔に見なせる可能性に着目し,富士山山体を鉛直的に利用して大気化学観測を行った.今年度は,富士山山頂および山麓において夏期集中大気化学観測を行うとともに,富士山麓において雨水および霧水の通年観測を行った.その結果,以下のようなことが明らかになった.
1) 本研究で新たに開発した“太陽電池駆動小型自動雨水採取装置”と従来から湿性沈着用の評価に使用されてきたろ過式採取器を用いて,富士山山麓における湿性沈着量の通年観測を行った.その結果,自動採取装置では降雨採取ロスがなく,乾性沈着の影響を防げることから,山岳域等の無電源地域における湿性沈着量を評価する上で有用な装置であることが明らかになった.
2)山頂と山麓で雨水と霧水の同時採取を行った.その結果,山頂に比べて山麓で成分濃度は高く、pHは低いことが分かった.観測期間中の山頂における霧水の体積加重平均pHは4.49であり,山麓における霧水の体積加重平均pHは3.47であった.
3)山頂,山麓ともに霧水pHの低下には,(硝酸イオン/硫酸イオン)比の増加を伴うことから,霧水pHの低下は大気中HNO3ガスの吸収によるものと推測された.
4)山頂と山麓で,大気中および霧水中VOCs(塩素化炭化水素,単環芳香族炭化水素,二環芳香族炭化水素,カルボニル類)の同時観測を行った.大気および霧水ともにトルエンが主要なVOCsであることが分かった.カルボニル類ではアセトン濃度が高濃度であった.現時点では大気中VOCsの起源は特定できていないが,山頂のVOCs濃度は山麓や都心部と同程度に高いことが分かった.
5)霧水中VOCsには大気中VOCsからヘンリー則によって予測される以上のVOCsが溶解しており,その濃縮率は山麓の方が高いことが分かった.特に,ナフタレン類の濃縮率が高く,霧水中に含まれる非溶存態のフミン様物質が関与している可能性が示唆された.
6)都心域に比べて,富士山山麓ではエアロゾル中の多環芳香族炭化水素(PAHs)は低濃度であり,都心域の1/3以下であることが分かった.測定を行ったPAHsのなかでは,フルオランテンとピレンが主要であることが明らかになった.