表題番号:2006A-851 日付:2007/03/23
研究課題池袋児童の村小学校における校外教育の理論と実践の研究―体験活動の意義―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 助手 野口 穂高
研究成果概要
 本研究は、大正期の新教育実践校である池袋児童の村小学校(以下児童の村と略記する)における、校外(野外)教育の理論と実践を総合的に考察し、その教育的意義を明らかにすることを目的とした。
 本研究の成果を示すと、児童の村の校外(野外)教育について次のような点が指摘できる。児童の村の教師である野村芳兵衛は自己の仏教的な「生命主義」の世界観に基づき、個の「生命」を、他の「生命」や自然と調和的に結び付けていた。そして、「生命」の「調和」と「共生」を自覚し、その実現を可能にする場所として、自然環境に大きな教育的価値を見出したのであった。また、野村の教育論においては、遊びと学習が相互に協力する関係として位置付けられ、野外での教育が子どもの成長に不可欠なものとされた。さらに、当時の一般的な校外(野外)教育が、自然との個人的関係に留まっていたのに対して、万物を調和的に自然の中に位置づけ、個々人と自然を集団的・相互的・複合的に結び付けて実践を構想していたことは、野村の野外教育論の大きな特色であった。
 このような野村の調和的自然観に基づく野外教育論により、種々の野外活動が展開された。まず、子どもの身心を育むために野遊びや水泳、登山が実施された。さらに、このようにして自然の中で育まれた個々人を自然と「調和」的に結びつけ、人間と自然が「共生」する社会の実現を目指したのである。その方法としては、第一に、生物の力強さや自然の調和、自然と人間との共存的生活を観察・研究することが行われた。また、第二として、「夏の学校」などを通じた家族的協働生活により、学級集団における調和の実現を図り、自然との共生的な生活を目指している。
 以上のように、児童の村の校外(野外)教育は、個の「生命」を尊重し、その解放の場所として自然を重視した点では同時代の「新学校」の校外(野外)教育と共通していた。しかし、他の「新学校」による実践が、自然体験を通じた個人の成長という個人的範囲に限定されがちであったのに対して、児童の村の実践では①「生命」の調和を自覚し、他者との調和的協働生活の実現を目指し、さらには、人間社会と自然の「共生」にまで視野を広げて校外(野外)教育を構想していたこと、②実際の野外生活を通じて、子どもの身心と知性の成長のみならず、他者や自然と「共生」するための諸能力を、生きた能力として育んでいたことが、その大きな特色であった。