表題番号:2006A-836 日付:2007/03/24
研究課題プロモーターの物理的特性に印された遺伝情報の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 大山 隆
研究成果概要
 遺伝子の転写を制御する領域であるプロモーターは、分子生物学においてこれまでに最もよく研究された領域のひとつである。しかし見方を変えると、プロモーターを構成するDNAに関して分子生物学が明らかにした知見は、その塩基配列に関するものだけである。我々は最近、ヒトとマウスのクラスII遺伝子のプロモーターを対象として、DNAの機械的性質の解析を行った。そして、プロモーターのDNAを硬さ・柔らかさという視点から見ると、すべてのプロモーターに共通した、そして他の領域には見られない独特の性質があることを発見した。具体的には、プロモーターの内部に一カ所、極めて柔らかい特性を持つDNAと極めて硬い特性を持つDNAが隣り合わせになった部位があり、この部位を境に上・下流のDNAの平均的硬さが変化することを発見した。しかしこれまでの研究では、解析範囲が転写開始点上流-500から下流+100の範囲に限られており、それ以外の領域にこのような特徴を有する領域があるか否かは不明であった。また、この点を明らかにするためには、ゲノムワイドな解析が行えるコンピュータプログラムが必要であるが、そのようなプログラムはこれまでなかった。そこで本研究課題では、ゲノムワイドな解析を目的としたコンピュータプログラムの開発を試みた。その結果、300Mbの機械的特性をわずか1時間程度で解析できるプログラムを作成することに成功した。このプログラムを用いた解析は緒についたばかりであり、上記の疑問に対する答えはまだ得られていないが、ゲノムワイドの機械的特性という観点からは、興味深い知見が得られ始めている。たとえば、酵母第3染色体を用いた解析では、遺伝子間領域(プロモーターを含む)は、ORF(open reading frame)よりも硬いDNAでできていることが判明した。現在、当初の目的に沿った解析を進めている。