表題番号:2006A-835 日付:2007/03/23
研究課題市町村合併に伴う社会科副読本の記述内容の変化とその課題に関する地理教育論的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 池 俊介
研究成果概要
 本研究では、静岡県内の各市町村で発行されている全ての社会科副読本を対象として、その構成・記述内容の特色を明らかにするとともに、いわゆる平成の大合併によって誕生した広域自治体における副読本作成上の課題についても考察した。静岡県においては、4町を除く全ての自治体(計38)において社会科副読本が作成・使用されていた。副読本は、一般に「教科書準拠型」「資料集型」「ワークブック型」に分類されるが、自地域の事象を取り上げている以外は構成・内容とも教科書と大差がない「教科書準拠型」が大部分を占めている。また、各自治体の地域性を重視した構成・内容の副読本も少なく、記述内容の画一化が著しく進んでいる。市町村合併が近年実施された14の自治体のうち、大半の自治体ではいまだ副読本を作成中の状態にあったが、作成担当者への聞き取り調査により、自治体の広域化に伴う新たな問題に直面していることが明らかとなった。最大の問題点は、広域化に伴って市町村の地域的範囲を「身近な地域」として安易に設定してきた従来の地域学習の矛盾が顕在化していることである。とくに広域自治体においては、「身近な地域」の学習の直接的なテキストとして使用してきた従来の副読本のあり方の再検討を迫られているが、実際には、新たな市域内での旧市町村(身近な地域)の位置づけを明確化した記述に努める以外には、有効な対応策を見出せずにいるのが現状である。また、多様な特色をもつ地域を内包した広域自治体を単位とする学習は、県を単位としたその後の学習と重複する面が多く、従来の市町村(身近な地域)・都道府県・国という学習対象地域のスケールについても検討が必要となっている。今後は、広域自治体を単位とする副読本と、「身近な地域」を単位とするワークブックの併用など、子どもの直接経験を活かした学習の展開を促進できるような新たな方策を考えて行く必要があろう。