表題番号:2006A-828 日付:2008/03/31
研究課題中唐期における文学活動の地域性と文学理論の展開についての考察
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 助手 土谷 彰男
研究成果概要
報告者は先に本考察に関わる基礎的研究として「中唐初期における蘇州文壇形成についての一考察」と題する論文を執筆し、蘇州文壇における中唐詩人韋応物の役割とその文壇の文学理論を考察した。本考察ではそれにもとづき中央朝廷と対峙する形によって蘇州文壇が形成されたその具体相を明らかにし、また文壇の構成員たる皎然、顧況、劉太真について個別的に考察を行った。その結果は次の通りである。

(1)唱和応酬の場における徳宗朝廷と地方との創作の状況に沿って蘇州文壇が独自の文学観のもとに創作活動を繰り広げていたこと、
(2)皎然「詩式」に見られる詩歌観は蘇州文壇のそれと軌を一にし貞元期の江南詩人の活動を浮き彫りにさせ、これにより従来その区別が曖昧であった大暦と貞元の文学の差異を明らかにしうるものであること、
(3)復古に価値を置き儒家的観念を文学の中心に置いていた顧況はもう一方に存在する南朝文学という文学観念との相克を乗越える視点を獲得したため多面的な創作活動を行いえたこと、
(4)朝廷文壇の領袖のひとりであった劉太真も載道主義から蘇州文壇における南朝文学への発見と至る過程において顧況と同じような経路を歩んでいた可能性があること

これらの結果は、蘇州文壇の形成と皎然については、「早稲田大学中国会第31回春季大会研究発表」(6月17日於早稲田大学文学部)、および「第13回中国唐代文学会国際大会」(8月26日於中国北京・首都師範大学)において発表を行ったものである。また江南詩人における大暦・貞元の文学の画期については、「日本中国学会第58回大会研究発表」(10月8日於大東文化大学)において発表を行ったものである。また、顧況・劉太真については、「中唐蘇州文壇の理論形成における顧況の文学とその文学観について」を執筆したものである。

報告者はまた、蘇州文壇の領袖である韋応物の文学に関して、彼の文学活動の初期段階における多様性に着目し、韋応物の文学活動の一端を明らかにした。その成果は、「韋応物『驪山行』詩考」にまとめた。

これら一連の研究は、作家論的観点から韋応物その人の文学、あるいはそれを取り囲む詩人群の文学を解明するのに資するのみならず、文学理論的観点から唐詩における唐代中期の文学潮流の変化について一定の理解を示しえたという点において成果を残したと考える。