表題番号:2006A-813 日付:2007/05/06
研究課題均等待遇原則(同一労働同一賃金原則)をめぐるイタリア労働法の展開
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 助手 大木 正俊
研究成果概要
本研究では、まず日本の労使自治に関する議論、特に「協約自治の限界」を検討することが不可欠だと判断した。そのため、まず日本の議論を再検討し、イタリアの議論を参照するための視点をえることとした。検討の結果として、日本でも協約は私的自治の産物だとの認識はもたれていると考えるに至った。それでもなお、日本では労使間の交渉力等の不均衡が存在することを背景に、または労使の「癒着」を背景に、協約自治の重視を強調できない土壌が存在すると考えられる(この考察の成果の一部は後掲研究発表で表した)。
 以上をふまえてイタリアの議論の検討を始めた。まず、イタリアではどの程度私的自治が尊重されているかの検討に入った。ここでは、イタリアの労働協約の解釈方法に関する議論を検討するにいたった。
イタリアでは、裁判官が労働協約を解釈するにあたって、どの程度当事者の主観的意思に拘束されるかをめぐって大きな議論がある。当事者の主観的意思を尊重することは¥労使自治の強さを認めることに他ならない。この議論を検討することにより、イタリアでの労使自治の強さの程度をある程度把握できる。この点については、近日雑誌等の論文の形で発表する予定である。
 さらに、私的自治が賃金均等待遇原則とどのような関係に立つかについて、イタリアの文献を読み込み、理解を深めた。この点を検討するには望外の多量な文献を読み込む必要があることが判明したため、現在その読み込み作業を続けているところである。現在は、その作業の途中経過の報告の意味も含めた、一つの論文を執筆中である。
 また、イタリアのカターニア大学で労働法を研究されているカルーゾ教授へのインタビューをおこなった。主に、上記の問題に対する教授の見解をうかがった。被差別者の置かれている不利益な立場を「補完する」という差別の機能を強調される教授独自の見解を基にした議論をしてくださり、非常に有益であった。