表題番号:2006A-810 日付:2007/05/16
研究課題日・中・英語のインターアクションと参与者のアイデンティティ
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 専任講師 武黒 麻紀子
研究成果概要
本研究では、言語インターアクションを、コミュニケーション手段として、また参与者・話者のアイデンティティに密接に関わるものとしてとらえてきた。日本語・中国語・英語のインターアクションの参与者が言語行動を常に読み取りあい、互いの行動を影響しあう動きを分析しながら人間関係や自己のアイデンティティを創造していくダイナミックなさまを通時的・共時的視野から調査した。今年度は、分析のほかに、特に、中国語と英語のインターアクション・データの収集に力を入れた。
 日本語に関しては、すでにあったデータをもとにして分析を行った。Goffman (1974) の参与者の枠組みの考え方や社会中心(socio-centric)アプローチ(Hanks 1990)を取り入れながら、日本語のインターアクションに関しては、常体・敬体の使用を分析した。その結果、私たちが日常生活において他人の行動との兼ね合いで自分の行動を微調整することをattunement (Takekuro, 2007)と提案し、それが行動パターンの一つとして、常体・敬体の使用にも見られることを指摘した。
 また、インターアクションで、ある言語形式が選択されるとき、話し手と聞き手だけがその決定にたずさわると言えるのかどうかを検証するために、ガーフィンケルの「違背実験 "breaching experiment"」(期待される行動にあえて反する行動を取ることで日常生活の当たり前を探ろうとするアプローチ)(Garfinkel 1967)を取り入れた。その結果、一人の人間の行動がその場にいる全員に影響を与えてしまう可能性や、漏れ聞く者の存在もインターアクションにおける主要参与者の行動に何らかの影響を与えていること、つまり一人の話し手の行動やスピーチは、その場にいる他者も関わって出来上がるコラボレーションであることを示した。
 これまでに中国語と英語のインターアクションデータの収集を終え、日・中・米語のインターアクションについてのまとめを学会発表予定として投稿中である。意味を伝える道具としての言語研究の限界を乗り越え、コミュニケーション手段として人々が日常生活の中で使う言語をダイナミックな形で捉えるため、さらに検討を続けている。