表題番号:2006A-151 日付:2007/05/06
研究課題唐代における仏頂尊勝陀羅尼経変とその背景の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 會津八一記念博物館 助手 下野 玲子
研究成果概要
仏頂尊勝陀羅尼経の変相図は敦煌莫高窟第217窟南壁に描かれた8世紀初頭の作品を初見とするが、これは仏陀波利訳『仏頂尊勝陀羅尼経』の本文だけでなく序文も絵画化されているという、経変としては珍しい作例である。仏陀波利訳『仏頂尊勝陀羅尼経』には五台山文殊菩薩の霊験により本経が仏陀波利によってもたらされ、翻訳されたことを記す「序」が付属しており、本経の信仰拡大に果たした役割はきわめて大きいと考えられている。この序を詳細に検討することは、本経の信仰の成立と伝播を解明することにつながる。従来、序については、文中にあらわれる年号で最も新しい「永昌元年8月」を成立年代、作者を訳経関係者に会い陀羅尼を授受されたという「定覚寺主志静」であると解する向きもあるが、「永昌元年8月」は厳密には序の成立年代の上限を示すにすぎず、また夙に干潟龍祥氏が指摘したように作者は不明とするのが妥当であろう。
仏頂尊勝陀羅尼経と他の経典との関係から信仰状況を探る試みも行ない、本年度の経幢の調査により、中国山東省泰安市で仏頂尊勝陀羅尼経の最後に七仏倶胝真言、地蔵菩薩真言、蜜多心経真言、観音菩薩消災真言を刻している実例を確認し得た。このような作例からは、仏頂尊勝陀羅尼経は死後の罪業消滅や破地獄に関する信仰と関連性が強いことが指摘できる。
今後も仏頂尊勝陀羅尼経幢の現物調査を続行し、拓本資料などと合わせて、より詳細な記述から唐代の仏頂尊勝陀羅尼経の信仰形態を考察し、本経典の変相図の成立の背景を明らかにしてゆきたい。