表題番号:2006A-111 日付:2009/11/10
研究課題膝前十字靱帯再建術に伴う大腿四頭筋筋力低下のメカニズムと予防対策
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) スポーツ科学学術院 教授 福林 徹
研究成果概要
【目的】前十字靭帯(以下ACL)の損傷はスポーツ外傷では最も注目されている疾患の一つである.スポーツ活動への復帰を希望する者に対してはACL再建術とその後のアスレチックリハビリテーションが不可欠である.しかし ACL再建術後の大腿四頭筋の回復過程を生理学的な側面と形態学的な側面の両方から詳細に研究したものは見当たらない.そこで本研究はACL再建術後の大腿四頭筋の形態および筋活動がいかに変化し,また回復するかの詳細を検討することを目的として,ACL再建患者の大腿四頭筋の筋体積および固有筋力の変化,膝伸展トルク,大腿直筋,外側広筋,内側広筋の筋放電量の縦断的な計測評価を行いその予防対策を立てることを目的とした。
【方法】ACLの再建を行った患者のうち,リハビリテーション経過を観察できた18名(男性8名,女性10名)を対象とした.MRIを用いて術後3,4,6,9,12ヶ月経過時に大腿部の筋体積を計測すると共にに、等尺性膝伸展筋力をBIODEX SYSTEM 3を用い90°,75°,45°で計測した.また筋電計(バイオモニターME6000)を用いて大腿直筋,外側広筋,内側広筋の表面筋電図を記録した.
【結果】ACL再建術後の大腿四頭筋では平均して10%程度の筋萎縮が見られた。萎縮は内側広筋を中心として起こり,他の3筋は萎縮が多少軽微であった。筋力は筋断面より術後早期にその落ち込みが大きかったが、術後半年以上ではその程度はほぼ筋萎縮の程度と比例した。筋放電量では各角度の比較では筋トルクと同様に90°の対健側比が高く,角度が浅くなっていくほど筋放電量が低下する傾向がみられた.経時的変化では少なくとも術後9ヵ月までは内側広筋の筋放電量の低下が残存することが認められた.筋断面積当たりの筋出力は固有筋力と呼ばれているが、この固有筋力はいずれの角度でも術後6ヵ月までは有意な差が認められたが,それ以降は有意な差が認められなかった.これらのことから術後の大腿四頭筋の筋力低下は筋萎縮による筋体積減少に加え,神経筋反応を介して高次機能からの神経的抑制や脊髄レベルでの関与が考えられた. ACL再建術後の早期の完全な復帰を行なうためには,単に術後のリハビリテーションメニューを加速するだけでなく,神経筋の反応を十分考慮し,術後早期より内側広筋に十分な刺激を加えるようなメニューや,早期の手術部の炎症の鎮静化や,メカノレセプターの再生を促すメニューの確立が必要と思われた.