表題番号:2006A-086 日付:2007/03/19
研究課題Xe中における放射線エネルギー損失過程とXeの密度効果
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 長谷部 信行
研究成果概要

気体・液体Xeに放射線を照射したときには、放射線のエネルギーによって電子・イオン対とシンチレーション光が発生する。Xeを用いた放射線検出器は、天文学、惑星科学、素粒子物理学、医学的応用において第一線で活躍しており、このような放射線の密度変化を知ることは非常に重要である。
W値はひとつの電子・イオン対を作るのに必要な平均エネルギーであり、Ws値は光子をひとつ作るのに必要な平均エネルギーをあらわす。これらは放射線のエネルギーには依存しない量である。W値の場合、気体Xe・液体Xeではそれぞれ、21.9eV、15.6eVであることが知られているが、気体から液体への密度の上昇と共にどのように変化してゆくかということは、実験・理論の両者共にまだ確立していない。

本研究ではグリッド付の平行平板型電離箱を作成し、キセノンを0.1~1 MPa充填し、Np237、Am241、Cm244が放出するα線を計測しその電離電子数を測定した。実験結果では0.1~1 MPaのXe圧力変化があってもW値の変化は2い%以内であり、このような圧力範囲では実験精度内で変化がないことが明らかになった。さらに、高密度での実験を行うためにはキセノンガスの高純度化が特に重要である。これまでに循環型純化装置を製作しその動作試験を行っている。
気体Xe(1 MPa)、液体XeのWs値はそれぞれ34.3 eV、13.8 eVであることが知られており、密度と共にWs値が減少すると考えるのが普通である。しかしながらこれまで我々が得たWs値は密度と共に上昇するという矛盾した結果が得られている。今回これまでのデータを再評価した結果、Wsは密度と共に上昇することに間違いがないことを確認した。放射線のエネルギーがシンチレーション発光に変化する過程は単純ではないと言える。