表題番号:2006A-071 日付:2007/03/25
研究課題シミュレーション解析と内部電極測定を組み合わせた高性能人工肺の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 専任講師 小堀 深
研究成果概要
【緒言】外部灌流膜型人工肺のガス交換は血液側境膜律速であり、境膜形成には血液側流動が大きく関与する。そこで本研究では、電極と導電性流体を用いたステップ応答法により測定した電極電圧の変化からモジュール内の流体到達時間分布図を作製し、血液側流動を可視化した。モジュールの血液出口に着目して電極位置を設定することで、血液出口形状が人工肺内の血液側流動に及ぼす影響を検討した。
【方法】市販の外部灌流膜型人工肺(以下、非対称形状モジュール)と、この人工肺に血液出口を追加した対称形状モジュールの2種類の試験人工肺を評価対象とした。血液出口方向を基準として、モジュール半径方向に90°間隔で電極設置面(a)、(b)、(c)、(d)を設定し、面内に30個(6×5)ずつの電極を設置した。低流量(1 L/min)と高流量(5 L/min)で、血液と同粘度(20℃、3.7 Pa・s)に調製した低導電性流体(グリセリン水溶液)から高導電性流体(グリセリン+3%NaCl水溶液)に切り替えて灌流したときに生じる電極電圧の変化を測定した。測定電圧値を規格化電圧値に変換し、規格化電圧値が0.5となったときを電極への流体到達時間として、流体到達時間分布図を作成し、血液側流動を可視化した。ANSIS-FLOTRAN(サイバネットシステム)により、両試験用モジュールの血液側流動のシミュレーション解析結果と比較した。
【結果および考察】各電極への流体到達時間分布において、全ての電極設置面内のモジュール上部および下部で、最外周への流体到達が遅れていた。これらの部位では、淀みが生じる可能性が考えられる。非対称形状モジュールでは、血液出口から最も遠い電極設置面(c)における流体到達が他の設置面と比較して顕著に遅れていた。互いに血液出口から等距離である電極設置面 (b)と(d)の比較では、電極設置面(b)の流体到達が早かった。各面において異なる流体到達分布が示されたことから、非対称形状モジュール内の血液側流は不均一であると考える。対称形状モジュールでは、各面において互いに似た分布が示されことから、モジュール全体の血液側流動は均一であると考える。よって、半径方向に対称なモジュール形状は、血液側流動の均一化に有効であると考える。非対称形状モジュールは低流量において、より顕著に不均一な分布を示したのに対し、対称形状モジュールは、低流量でも均一な分布を示した。そのため、低流量での使用には、対称形状モジュールの使用が有効であると考える。以上の傾向はシミュレーション解析結果とも一致した。
【結言】電極と導電性流体を用いたステップ応答法は血液側流動の評価法として有用である。人工肺モジュールの血液側流動はモジュール形状の影響を受けるため、半径方向に対称なモジュール形状にすることで、血液側流動の均一化が可能である。