表題番号:2006A-061 日付:2007/03/02
研究課題優れた生体適合性を有する高性能合成高分子透析膜の創製
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 酒井 清孝
研究成果概要
血液が透析膜と接触すると血漿タンパク質の吸着が起こり、このタンパク質吸着層を介して血液凝固反応などの過激な生体反応が誘起される。そのため、生体適合性を透析膜に付与するためにはタンパク質吸着を低減することが重要である。本研究では、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、ナノレベルの視点から、材料表面と生体適合性の関係を解明することにより、さらに優れた生体適合性を有する合成高分子透析膜の創製を目指す。
PVP(K90,M.W.:1200 kDa)配合量が0-50 wt%、ガンマ線吸収線量が0,25,50 kGyのPS/PVPフィルムを調製した。AFMにより水中での調製フィルム表面構造を観察し、AFMフォースカーブにより測定した表面柔軟性マッピング、フィブリノーゲン(Fib)吸着力マッピングと比較することで、PVP配合量およびガンマ線照射量に起因する表面状態を検討した。表面構造観察の結果、PVP配合量の増大に伴い、表面粗度は大きくなった。5 wt%より少ないPVP 配合量では、PVPの増加による表面粗度の変化が大きく、5 wt%以上では変化は小さくなった。また、表面柔軟性マッピングの結果、PVP配合量の増大に伴い、表面は顕著に柔軟となり、PVP配合量5 wt%以上で一様に柔軟となった。これらのことから、PVP配合量が5 wt%以上で水和膨潤したPVPはフィルム表面を完全に被覆すると考える。Fib吸着力に関しては、PVP配合量が0 wt%では約3 nNの強い吸着力を示したが、PVP配合量5 wt%では最大で約1 nNの弱い吸着力を示した。PVP配合量が5 wt%以上でさらに吸着力は小さくなった。PVP層の厚みがFibの吸着力を緩和することを見出した。また、ガンマ線吸収線量が50 kGyのPS/PVPフィルムでは、PVP量増大に伴うFib吸着力の低減が緩やかになったことから、過剰なガンマ線照射はPVPのFib吸着緩和効果を阻害することを見出した。