表題番号:2006A-058 日付:2007/03/21
研究課題炭素繊維強化複合材料の疲労に対する長期信頼性評価
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 川田 宏之
研究成果概要
 本研究では,炭素繊維強化プラスチック(CFRP)積層板の超長疲労特性について調査を行った.一般に,CFRP積層板の疲労損傷挙動は次のような3過程を経て破断に至る.(I)層内樹脂割れと呼ばれる微小クラックが積層板内部に多数発生する.(II)層内樹脂割れを起点として層間剥離が発生し,繰返し数が増すとともに進展する.(III)強化繊維が破断することによって試験片の破断に至る.層間剥離の発生は,積層板の圧縮強度を大幅に低下させる原因となる.そこで本研究では,超長寿命域におけるCFRP積層板の層内樹脂割れを起点とした層間剥離の発生挙動について調査を行うことを目的とした.
 初期損傷の影響を考慮した層間剥離の発生,進展挙動を調査するために,疲労試験前に予め層内樹脂割れを任意に生じさせた試験片と未損傷状態の試験片の2種類を用意した.その2種類の試験片を用いて繰返し数108回を超える疲労試験を行った.その結果,負荷応力レベルmax/b=0.4~0.6の範囲内では,初期損傷の有無に関わらず,層間剥離は層内樹脂割れが多数集中する箇所から発生が観察され,層内樹脂割れが疎な箇所からの層間剥離の発生は観察されなかった.この負荷応力レベルの範囲内では初期損傷として与えた層内樹脂割れが少数である場合は,層間剥離の発生には大きな影響を及ぼさないことが分かった.負荷応力レベルmax/b=0.3で行った疲労試験では,層内樹脂割れに先行して層間剥離が発生,進展することが観察された.この原因として,試験片端部のエッジ効果と呼ばれる応力特異場の影響が大きく関与していることが考えられる.この現象は従来の疲労損傷挙動とは異なる結果である.CFRP積層板の疲労に対する設計は層内樹脂割れが発生しないような応力レベルで設計されているが,超長寿命域側では層内樹脂割れが発生しなくとも層間剥離が発生する可能性があり,従来の設計基準では危険となる可能性が示唆された.一方,負荷応力レベルmax/b=0.2で行った疲労試験では繰返し数2×108回を超えても層内樹脂割れ及び層間剥離の発生及び進展は観察されなかった.
 以上まとめると,超長寿命域のCFRP積層板の疲労特性を調査した結果,初期損傷として存在する層内樹脂割れが少数であれば,層間剥離の発生には影響を及ぼさないことが分かった.しかしながら,低応力レベルの超長疲労域においては,層内樹脂割に先行し,層間剥離が生じることが明らかとなり,従来のなされている層内樹脂割れの発生を基準とした設計ではなく,層間剥離の発生を基準とした設計を行わねばならないことが示唆された.