表題番号:2006A-040 日付:2007/03/20
研究課題メダカ・ポリコーム相同遺伝子群のエピジェネティックスにおける機能解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 東中川 徹
研究成果概要
 1個の受精卵を出発点として展開する発生過程は、胚細胞からなる集団がゲノムの塩基配列を変えることなく、種々の細胞系譜に分化していくエピジェネティックなプロセスである。この現象は、20世紀初頭から生物学、とりわけ発生生物学の中心問題のひとつであった。我々は,このエピジェネティクスの分子機構を明らかにするための一環として、マウス、ゼブラフィッシュ、メダカを用いてPolycomb遺伝子群 ( PcG ) に着目して研究を進めてきた。
 本年度は、メダカのES(胚性幹)細胞の系を導入し, その分化誘導の過程におけるPcGの動態を解析した。メダカES細胞MES1はYunhan Hong教授(国立シンガポール大学)により樹立されたものを同教授より供与を受けた。本細胞は、哺乳動物培養細胞とは異なり、魚血清、メダカ胚抽出物を用いるため培養系の樹立には時間を要した。本計画は、長期的にはメダカにおける遺伝子ターゲティングの系の確立を通じてPcGの機能をより直接的に解明することを視野におく。本年度は、種々の予備的実験を試みた。
 一般にES細胞やEC細胞などの幹細胞をレチノイン酸で処理すると未分化能を失い、種々の細胞に分化することが知られている。MES1細胞をレチノイン酸で処理すると、未分化細胞マーカーであるアルカリフォスファターゼ活性やOct4遺伝子の発現が経時的に低下した。また、形態的に神経細胞あるいは筋肉細胞様の細胞の出現も認められた。この分化誘導系において、メダカPcGの発現動態をRT-PCRによりモニターしたところ、olring1b, oleed, olezh2遺伝子の発現の減少が認められた。遺伝子発現を抑制的に維持すると考えられているPcGの発現減少は、MES1細胞が幹細胞としての特性を失い、分化の経路を進行し始めたことを示す。