表題番号:2005B-502 日付:2006/03/12
研究課題腕の運動制御に関する横断的研究-脳画像と行動データ検討
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 福澤 一吉
研究成果概要
【はじめに】05年度は、腕の運動制御に関する横断的研究の基礎的背景に関する報告を行う。ヒトの多関節到達運動の最適化規範として、指令トルク変化最小規範(Nakano, Imamizu, Osu et al., 1999)がヒトの実際の運動を最もよく再現する規範であると報告されている。また、Wada, Aiba, Fukuzawa(2001a,b)は20歳代の被験者を対象に行った、矢状面上2点間到達運動の計測結果から、運動時間が短くなるにつれて手先が通過する垂直方向の高さが低くなることが確認され、この運動時間と手先高さの関係を指令トルク変化最小規範で説明できることが示されている。また、頭頂葉損傷例においては手先の運動時間が速くなっても手の高さが低くならず、トルク制御と頭頂葉の関連が示唆されている(Tsunoda, Fukuzawa, et al.2002)。
【目的】05年度の研究では、2点間到達運動における運動時間と手先の通過する垂直方向の高さの関係について、Wadaら(2001a,b)で観察された指令トルク変化最小規範で説明される現象が、加齢によって変化するかどうかを異なる年齢層の健常被験者を対象として検討する。なお、本課題における基礎的データの追加が必要であるため、同テーマとの関連する脳画像研究は06年度以降に引き続き行う予定である。
【方法】<被験者>:19~75歳の右利き健常者13名(男性8名、女性5名)。<実験>:①運動時間(速、普通、遅)と運動距離(0.200m、0.175m、0.150m)を変化させて、被験者の机上での矢状面上2点間到達運動を3次元位置計測装置を用いて計測した。②運動時間と手先の通過する垂直方向の高さの関係を解析した。
【結果】被験者のうち3名は十分なデータがそろわなかったため解析から除いた。したがって、19~69歳の被験者10名(男性5名、女性5名)について解析を行った。10名の被験者のうち、5名(21~69歳;男性3名、女性2名)については、運動時間が速くなるにつれて手先の通過する垂直方向の高さが低くなった。一方、残りの5名(19~65歳;男性2名、女性3名)については、運動時間が速くなっても手先の通過する垂直方向の高さが低くならなかった。
【考察と今後の問題】本研究結果からは、運動時間が速くなるにつれて手先の通過する垂直方向の高さが低くなることが加齢によって変化するかどうかは確認されなかった。制御対象である手が成長とともに物理的に変化する時期の被験者(幼児、児童)、および、加齢による運動能力が低下する時期の高齢被験者が今回含まれていない。手先高さの制御(トルク制御)と加齢との関係については今回の実験の被験者よりも、今後さらに被験者数を増やして、幅の広い年齢層を対象とした運動の計測・解析が必要であることが示唆された。