表題番号:2005B-315 日付:2006/03/24
研究課題高地トレーニングの効果における個人差の成因となる遺伝子多型に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) スポーツ科学学術院 教授 村岡 功
研究成果概要
 スポーツの分野において、高地トレーニングはパフォーマンス改善のための科学的なトレーニング方法であると注目されている。しかしながら、その効果が現れ易い人(レスポンダー)と現れ難い人(ノンレスポンダー)が存在することから、この個人差の成因を明らかにすることが急務の課題となっている。我々はこれまで、この個人差が急性低酸素刺激に対する換気応答(HVR)の感受性や、低酸素室居住後のエリスロポエチン(EPO)濃度の上昇の度合いと、関わっている可能性を明らかにしてきた。一方、最近ではこの問題を遺伝子多型との関連で検討しようとする研究が行われてきている。しかしながら、遺伝子多型とHVRやEPO濃度との関連を検討した報告はみられない。そこで本研究では、HVRやEPO濃度上昇率とHIF-1遺伝子多型との関連性を検討することを目的とした。
 被験者は健康的な一般成人男性15名であり、実験の実施に先立ち、実験の目的・方法や実験に参加することによって生じる危険性等を文書によって十分に説明し、被験者の自由意思による実験参加への同意を文書により得た。低酸素室への滞在は、被験者を酸素濃度15.4%(2500m相当高度)、室温24℃、湿度50%に設定した常圧低酸素室に12時間滞在させることで行った。測定項目は、HIF-1における遺伝子多型、低酸素室滞在前後の血清EPO濃度、滞在前のHVRであり、それぞれの結果から遺伝子多型とHVRあるいはEPO濃度との関連性を比較した。
 その結果、低酸素室12時間滞在後のEPO濃度は、滞在前の19.4±3.0mIUから後の30.2±+6.5mIUへと有意に上昇した。一方、HVRとEPO上昇度との間には有意な相関関係は見られなかったが、HIF-1の遺伝子多型は15名中1例で認められ、この1例は低酸素刺激に対する換気応答が鈍い3例のうちの一人であった。このことはHIF-1の遺伝子多型がレスポンダーを知る手がかりとなる可能性を示唆するものであるが、このことを明らかにするためには、今後さらに例数を増やして検討することが必要であるように思われた。