表題番号:2005B-166 日付:2006/02/25
研究課題可積分系理論に基づく区分線形写像力学系の総合的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 高橋 大輔
研究成果概要
 本年度は,超離散化手法が適用可能な差分写像力学系(以下簡単にマッピングと呼ぶことにする)に焦点を当て,研究を行った.大きく分けて2つのテーマに分かれる.
 まず最初のテーマは,Quispel-Roberts-Thompson系(QRT系)と呼ばれる2階の可積分マッピングをベースにして超離散化可能な高階のマッピングを発見することである.広田達の数式処理による実験的な研究により,3階以上で可積分なマッピング発見され,多数報告されている.そこで,本研究ではこれら3階のマッピングの解構造を詳細に調べ,2つの可積分な2階のマッピングから生成できることを発見した.その2階のマッピングはどちらも(QRT系)に属し,マッピング中の定数が初期値に依存するという形をしている.また,マッピング・解ともに超離散化可能であり,所期の目的の区分線形写像力学系の形式に翻訳できる.3階の可積分マッピングがこのように2階のマッピングに分離でき,しかも解軌道が初期値に依存するという構造は,従来の研究にはなく,今まで未知の領域であった3階以上の可積分系の研究に対して大きく寄与すると思われる.
 次のテーマは,明示的なリャプノフ関数を有するマッピングを発見することである.微分方程式で定義される連続的なマッピングでは,明示的なリャプノフ関数を持つものを作るのは容易である.しかしながら,差分方程式で定義される差分マッピングでこのような系を作った例は今までに知られていない.そこで,本研究では再びQRT系に焦点を当て,その保存量がリャプノフ関数に変わるための一般的な条件を導出し,これから上記の目的を達成することができた.また,この系も超離散化可能であり,区分線形写像力学系の形式に従い,かつ,明示的なリャプノフ関数をもつものを自動的に導出することができる.この成果は可積分系理論分野だけでなく,力学系分野全体に大きく影響を与える非常に重要なものと捉えている.