表題番号:2005B-143 日付:2006/08/23
研究課題サリチル酸誘導体の生産を目的とした新規な生体触媒の開発とバイオプロセスへの応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 桐村 光太郎
研究成果概要
 現在、産業上有用な芳香族ヒドロキシカルボン酸は有機化学的合成法により製造されているが、反応に高温高圧を要することや副生物との分離精製に複雑な過程を要することが問題点とされている。すなわち、多大なエネルギーを必要とし環境への負荷が大きいことが未解決のままにされている。一方、サリチル酸は芳香族ヒドロキシカルボン酸の代表的化合物で、解熱鎮痛薬であるアスピリン(アセチルサリチル酸)をはじめ各種医薬品の合成原料として重要であり、最近ではサリチル酸誘導体に血行改善作用や一部のがんに対する抑制効果が見出されたことから需要が高まっている。しかし、製造法はKolbe-Schmidt法に基づくフェノールに対する二酸化炭素固定によるもので、前述の問題点を抱えている。したがって、サリチル酸の生産プロセスを例として、常温常圧で副生物のない新規な合成法を考案することは、芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造法のみならず化学工業プロセスに共通する問題点を解決する端緒となるにちがいない。そこで、本研究では、サリチル酸の生産を目的として酵素等の生体触媒を利用した新規なバイオプロセスの開発を目的とした研究に着手した。
 筆者らは、フェノールの2位炭素(o-位)に二酸化炭素を位置選択的に固定する酵素を探索し、常温常圧条件下でのサリチル酸の選択的生産を可能にすることを目的とした研究を行った。既往の酵素にはこのような活性は見出されていなかったため、自然界から新規酵素を探索することとした。目的とする酵素の発見には、生成物としてのサリチル酸と基質としてのフェノールに関する定性および定量分析法が必要とされたためHPLCを利用した分析法を確立した。また、キノン系色素を利用した方法を採用し、微生物の培養液や酵素反応液など多検体の試料溶液に対してサリチル酸を容易かつ鋭敏に検出することを可能とした。これらを通して、広範な酵素の探索に対応しうるスクリーニング系を構築した。筆者らは日本各地から約500種類の土壌などの試料を収集し、フェノールからサリチル酸を選択的に生成する活性を初めて真核微生物に発見した。さらに、酵素の精製を通してこの活性が単一の酵素によるものであることを明らかにして、世界で初めて酵素によりフェノールからサリチル酸を選択的に生産することに成功した。また、休止菌体(あらかじめ培養した菌体)を生体触媒として利用する方法により、フェノールからのサリチル酸の選択的かつ効率的な生産を可能とした(注:特許申請に該当する内容もあり、微生物の具体的な属種や生産効率と生産量についてのデータを省略)。また、別種の酵素を利用して、サリチル酸誘導体としてのγ-レゾルシン酸の生産にも成功した。以上を通して、サリチル酸誘導体の生産を目的とした新規なバイオプロセスの基本型を開発した。