表題番号:2005B-142
日付:2008/02/22
研究課題非天然型ペプチド生産を目的とした新規生体触媒の開発とバイオプロセスの確立
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 理工学術院 | 教授 | 木野 邦器 |
- 研究成果概要
- 【低基質特異性アミノ酸ラセマーゼの機能改変と解析】
Pseudomonas putida IFO 12996が生産する低基質特異性アミノ酸ラセマーゼは中性、塩基性アミノ酸に対し広範なラセミ化活性を示すユニークな酵素である。当該酵素を利用して、安価なL-アミノ酸を出発原料としたD-アミノ酸生産プロセスを検討しているが、酵素工学的な見地からの基質認識機構は未解明のままである。そこで基質特異性の変化した改変酵素を取得し、遺伝子配列、タンパク質レベルの比較解析を行うことで当該酵素の基質認識機構を解明することを検討した。さらに、広範な基質特異性を示す高機能アミノ酸ラセマーゼを用いた工業的なD-アミノ酸生産法の開発研究も行った。
これまでに低基質特異性アミノ酸ラセマーゼ遺伝子へのランダム変異導入を行い、トリプトファンに対して顕著な活性を示す改変酵素を5種類取得した。これらの改変酵素の変異部位の解析から、384位のイソロイシン残基、396位のチロシン残基が当該酵素の全体的な活性の向上とトリプトファン特異的な活性向上に寄与していることが示唆された。そこで、両残基をタンパク質を構成する20種類のアミノ酸すべてで置換した変異体を作成したところ、384位では疎水的な脂肪族アミノ酸への置換が、396位では側鎖に水酸基、チオール基を有するアミノ酸への置換が当該酵素の活性を向上させることを明らかにした。現在は反応速度論的解析や分光学的解析に加えタンパク質立体構造モデリングによる解析も含めた両残基でのアミノ酸置換による活性向上のメカニズムを検討中である。
【D-アラニン-D-アラニンリガーゼによるD-アミノ酸ジペプチド合成】
D-アミノ酸含有ペプチド(D-アミノ酸ペプチド)は天然のペプチドとは異なる機能を示し,医薬原料,機能性食品としての用途開発が期待される。本研究では、細菌の細胞膜生合成の過程で機能するEscherichia coli K-12由来のD-アラニン-D-アラニンリガーゼ(Ddl)が反応機構、基質特異性の点でD-アミノ酸ジペプチド合成に有用な酵素であることを明らかにしてきた。Ddlは多くの細菌の生育に必須な酵素であり、類縁酵素はその遺伝子配列も含めてゲノムデータベースより容易に取得可能である。そこで、遺伝子配列が既知の好熱性細菌Thermotoga maritimaに着目し、当該菌のDdlホモログ(TmDdl)の耐熱性と高温反応における基質特異性を検討することで、より多様なD-アミノ酸ジペプチド合成法の確立を検討した。
これまでに、TmDdlがDdl活性を示し、常温での反応でもD-アラニン、D-セリン、D-スレオニン、D-システイン、グリシンを基質とする基質特異性の広いDdlであることを明らかにしてきた。そこで、当該酵素の耐熱性を測定したところ、TmDdlは10ºCから90ºCの範囲において熱安定性を示し、その反応速度は温度の上昇に伴って顕著に増大した。さらに60ºCの高温条件下ではTmDdlの基質特異性が拡張し,常温反応では合成が困難であったD-メチオニン、D-フェニルアラニンなどを含有する数種類のD-アミノ酸ジペプチドの合成にも成功した。さらにTmDdlが反応に必要とする微量のMg2+イオンを他の2価のカチオンで置換することで基質特異性が変化することを示唆する結果も得た。このようにTmDdlは高い安定性と広範な基質特異性を示す新規なDdlであり、効率的なD-アミノ酸ジペプチド合成法の開発に大きく寄与できるものと考えられる。