表題番号:2005B-133 日付:2017/03/23
研究課題希土類錯体の蛍光特性を利用したホウ素の新規ナノセンサーの開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 石原 浩二
(連携研究者) 大学院理工学研究科 客員研究助手 岩月 聡史
研究成果概要
 従来、ホウ素の比色定量に用いられてきた試薬は、クロモトロープ酸やH-レゾルシノールなどの有機化合物である。今日、これらの試薬に代わるより効率的かつ高感度な試薬を開発するためには、新しい検出場を導入せざるを得ない状況にある。本研究では、まず、金属錯体の分光特性および発光特性が、配位子の電子供与性や立体的構造によって多様に変化することに着目し、金属錯体を検出場とする新規ホウ素定量反応を提案する。次に、その概念を応用してホウ素の新規ナノセンサーの開発にまで発展させる。
 第一段階としてまず、2,2ユ-ビピリジンおよび1,10-フェナントロリン誘導体を有するルテニウム錯体([Ru(bpy)2(bpy-O2H)]+、および[Ru(bpy)2(dhph)]2+、(bpy = 2,2'-bipyridine, bpy-O2H = 2,2'-bipyridine-3,3ユ-diol, dhph = 5,6-dihydroxy-1,10-phenanthroline))とホウ酸との反応についてそれらの分光および発光特性を検討した。
 <[Ru(bpy)2(bpy-O2H)]+、[Ru(bpy)2(dhph)]2+の合成>
 蛍光を発することが知られているトリス(2,2'-ビピリジン)ルテニウム(II)錯体([Ru(bpy)3]2+)の一つの2,2'-ビピリジンを、ホウ酸類と反応するジオール部位を有する2,2ユ-ビピリジン-3,3'-ジオールや5,6-ジヒドロキシ-1,10-フェナントロリンで置換した標記の錯体の合成を試みた。これらの錯体は純物質として得にくかったが、検討を重ねた結果、PF6ミ塩として単離できることが分かった。
 <錯体とホウ酸との反応の検討>
 合成した錯体とホウ酸との反応を、1Hおよび11B NMR法、紫外可視分光光度法、蛍光光度法により詳細に検討した。
 [Ru(bpy)2(bpy-O2H)]+は、水に不溶であったため、溶媒としてアセトニトリルを用いた。この錯体とホウ酸との反応では、水が副生成するため、水の濃度が一定の条件下で反応を追跡した。その結果、反応が単純ではなく、しかもホウ酸との反応部位がジオールではないため、反応に時間がかかるという欠点はあったが、錯体由来の発光帯がホウ酸との反応によって大きくシフトし、発光強度がホウ酸の濃度と共に増加することがわかった。この結果は、ホウ素の定量反応にRu(II)錯体の発光特性を利用することが可能であり、かつ有用であることを示している。
 [Ru(bpy)2(dhph)]2+は、水に可溶で、ホウ酸との反応部位がジオール型であるため、ホウ酸との反応はより速やかに進行し、発光特性の変化も大きく、ホウ素の定量試薬としてより有用な錯体であることが示された。以上の成果により、本研究室の修士課程の学生が、日本分析化学会第54年会(2005年9月)において優秀ポスター賞を受賞した。
 現在、ホウ酸類との反応部位を有する新規希土類錯体の合成を試みている。