表題番号:2005B-122 日付:2006/03/25
研究課題株式市場における流動性変動の発生と拡大メカニズム
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 助教授 谷川 寧彦
研究成果概要
 消費財の取引では売り手(生産者)と買い手(消費者)が予め決まっているが,証券取引ではある価格が証券の価値に比べて高すぎると考えた人が売り手となり,低すぎると考えた人が買い手となる。「高すぎる」か「低すぎる」かの判断の差は,(潜在的な)市場参加者間に何らかの違い-例えば,アクセスできる情報内容が違うなど-があって初めてもたらされる。証券市場における流動性は,「買い手」や「売り手」ばかりに偏ることなく,どちらのサイドも,相応の「数量」の取引を望むということによって提供されている。市場参加者間の相違に基づくこうした流動性の説明では,取引が成立し約定価格が市場に知られるということ自体が市場参加者にとって新たな情報源となり,もし何らかの理由によって「間違った」約定価格がつくと,そのことに市場参加者が反応して,大きな注文の流入をよびおこすことがありえる。反対に,そうした「変な」価格に対しては,市場参加者が用心してスプレッドを広げて様子を見るなど,流動性を低める行動に出る可能性もある。
 どちらがおこるかを明らかにするため,大阪大学の西條教授を主査とする証券の裁定取引に関する経済実験の一部として,(1)株式の本源的価値である「配当」について正しい値を知っている主体と,ノイズがのった値を知らされた主体とが混在する状況を作り出し,(2)正しい値を知っている主体だけが取引に参加する期間,ノイズがのった値を知らされた主体だけが取引に参加する期間,両方の主体が取引に参加する期間を設定の上,(3)各期間内で何度も約定が成立しうる「ザラバ取引」の場合と,各期間一度だけ約定が成立する「板寄せ取引」の場合とについて,経済実験を行ったところ,次のような結果を得た。ザラバ取引では実験参加者の勘違いなどにより「間違った」価格がつくとそれに引っ張られた約定が起こる傾向があるが,板寄せ取引では理論が予測する「正しい価格」でほぼ約定し,ノイズがあることにより流動性が膨らむということがなかった。