表題番号:2005B-119 日付:2006/03/25
研究課題我が国の金融システムの機能評価と政府の役割
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 教授 大村 敬一
(連携研究者) ファイナンス研究センター 客員教授(専任扱い) 水上慎士
研究成果概要
「銀行への公的資金注入の評価とあり方」(仮題)
 我が国初の試みとなった銀行への公的資金注入から約7年の月日が経過した。現時点では、注入時の最大の懸念事項であった金融システム不安は解消され、公的資金注入行の基礎体力は強固になったかのように見える。2005年3月期には、金融再生プログラムで目標とされた「主要行の不良債権比率半減」も達成され、注入行による公的資金の返済も進んでいる。しかし、現在に至るまで、公的資金の注入効果は検証されていない。
本研究は、主成分分析を用いて公的資金注入行を含む全国銀行の財務特性を抽出し、それらの時系列的なパフォーマンスを比較検討することにより、公的資金の注入効果を分析するとともに、公的資金注入のあり方について考え方を整理し、あるべき政策フレームワークを提言することを目的とする。分析対象期間は1997年3月期~2005年3月期の9年間、対象サンプル数は計977、日経NEEDS Financial Questを使用した。
本研究による分析の結果、以下の点が明らかになった。
第1に、各期を通じて安定的で説明力の高い主成分が得られた。それらの主成分は、銀行財務の基礎体力を反映した「コア成分」、貸出のウエイトとその収益状況を示す「貸出成分」、資本の充実度と不良債権処理状況を反映した「安全成分」である。
第2に、主成分得点による銀行財務のパフォーマンス評価によれば、最近の銀行財務の改善は、①公的資金注入(政策効果)、②不良債権処理のインフラ整備とその活用(個別効果)、③景気回復効果(外部効果)の複合的効果による。
第3に、2001年を境に、金融行政は、特別検査導入や金融再生プログラム策定を通じて、それまでの護送船団方式から、格差拡大を容認しつつ問題銀行に対処するという政策対応へとレジームを大きく変化させた。
第4に、現在の金融システムは、「コア成分」に一定の改善が見られるものの、「安全成分」は全体として低水準にあり、「貸出成分」は商業銀行の貸出ポートフォリオが健全化の途上にあることを示していることから、頑健といえるまでには至っていない。
以上の分析結果を踏まえた検討によれば、公的資金注入政策とは、政府による延期オプションの保有と銀行ガバナンスの強化を目的とした政策といえる。市場で取引されている商品性を採用したからといって、市場性商品でなければ市場規律の活用にはつながらない。
政策的含意としては、公的資金の一斉注入は、経営改善のインセンティブや銀行監督によるガバナンスを弱める可能性があり、問題銀行への選択的注入とフォローアップにおけるガバナンスの強化が重要である。ただし、資本増強は必ずしも公的資金注入による必要はなく、民間のビジネスモデル競争の中で達成されることが望ましい。