表題番号:2005B-083 日付:2006/03/24
研究課題ラン色細菌の光生物的水素生産性の遺伝工学的改良
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 櫻井 英博
研究成果概要
 大気中の温室効果ガス濃度の上昇を抑制するには、化石燃料の代替となる再生可能エネルギーの開発が必要である.光合成生物を利用し、太陽光をエネルギー源として、再生可能エネルギーとして水素を大量生産するための基盤となる研究をおこなった。ラン色細菌のニトロゲナーゼを利用し、光生物的水素生産の効率を上昇させる目的で,取込み型ヒドロゲナーゼ(Hup)の構造遺伝子を破壊した変異株を5種類製作した。その内の4株は、全ゲノム配列が報告されているAnabaena/Nostoc sp. PCC 7120を親株とするものである.
 もう一つは、Nostoc sp. PCC 7422を親株とするものである.内外のラン色細菌株保存センターから得られた13株について、ニトロゲナーゼ活性を測定し、この株がもっとも活性が高かったのでこれを選んだ. この株はヒドロゲナーゼとして、Hup及び双方向性ヒドロゲナーゼ(Hox)の遺伝子クラスターをもつが、クラスター周辺の機能未知のORFの遺伝子を含めて塩基配列を明らかにした.ついで、hupL遺伝子の分断破壊株(ΔhupL)を作製し、これが目的とする変異株であることを確認した。ΔhupL株は、その水素生産活性が、親株(野生株)に比べて約3倍に上昇していた.
 ΔhupL株は、連続光条件下で水素を約10日間で濃度22-29%まで蓄積することができた。また、酸素に対する抵抗性も比較的高く、初期濃度20%の酸素を含む気相で培養しても最初の6日間の水素生産は5%程度までしか阻害されず、12日後でも阻害の程度は約15%であった。このように酸素に対する抵抗性が比較的高いのは、親株の選抜に当たり、空気の下で窒素固定活性の高い株を選ぶという研究戦略をとったことが適切であったことを示している.また、水素を10%以上に蓄積した後、気相をAr+5% CO2に再び置換すると水素生産が再開されるが、その初速度は最初の場合よりも低かったので、水素を繰り返し収穫する為には、培養条件の検討が必要であることが分かった.
 ΔhupL株の光-水素エネルギー変換効率は約3.7%(PAR:光合成有効放射.窒素栄養欠乏培地に移してから1-7日の平均)と比較的高かったが、このような高い効率は弱光下(18 W/m2)においてのみ得られるので、この問題の克服が必要である.