表題番号:2005B-077 日付:2006/04/25
研究課題血小板産生調節におけるトロンボポエチン-Mpl系の分子動態
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 加藤 尚志
研究成果概要
巨核球や巨核球前駆細胞に発現する細胞膜受容体c-Mplは、血液循環中にある血小板産生因子トロンボポエチン(Thrombopoietin ; TPO)と会合し、標的細胞の増殖と分化を引起こすシグナル伝達系を作動させる。新たに血液循環に供給される血小板の産生は、このTPO-c-Mpl系が主要な役割を担う。1細胞の中の、TPO-c-Mplの1複合体が実際に局在転移を起こして細胞に内在化し、その後c-Mplのみが再び細胞膜上にリサイクリングされる過程を直接観察するため、まず蛍光で可視化可能なc-Mplを発現する細胞を作出した。具体的にはFDCPマウス白血病細胞株を発現宿主とし、遺伝子クローニングしたマウスc-mplを強制発現導入した細胞株を樹立した。この時、重合体を形成しにくい緑色蛍光蛋白質eGFPの変異遺伝子をタンデムに連結させ、c-MplのN末端側(細胞外領域)あるいはC末端側(細胞内領域)に緑色蛍光をもつc-Mpl誘導体発現キメラ遺伝子を導入した。その結果、共焦点レーザー蛍光顕微鏡によって、双方のキメラ遺伝子ともにそれぞれが発現する細胞株を取得することに成功したことが確認された。一方、特殊な無細胞蛋白質合成系を利用して、c-MplのリガンドとなるTPO部分長分子のC末端側に蛍光色素を共有結合させた分子の取得に成功した。これらの細胞は遺伝子組換えTPOの存在下で細胞増殖能を獲得した。続いて生物物理学分野の共同研究者である東京大学薬学部船津高志教授とともに、レーザーを光源とした精密な顕微分子計測系(生体分子の一分子計測・可視化技術)による、1細胞における蛍光標識TPOあるいは蛍光標識c-Mplの観察に着手した。顕微観察系は構築可能であり、蛍光標識c-Mpl発現量の異なる細胞亜株をサブクローニングして、観察する細胞株のファインチューニングを継続して実施している。以上のことからサイトカインおよびその受容体の双方に異なる蛍光をもつ分子を利用した解析系構築に目処がたち、【標的細胞におけるTPO-c-Mpl複合体の局在変化】の解明へ向けた世界初の実験検証系の確立となった。