表題番号:2005B-061 日付:2006/03/25
研究課題善珠撰述仏典注釈書所引の漢籍に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 専任講師 河野 貴美子
研究成果概要
 昨年度に引きつづき、特定課題研究として善珠撰述仏典注釈書を中心とする諸本調査、および当該注釈書に引用された漢籍についての研究をすすめ、古代日本における漢字、漢文の知識や学問のあり方を考察した。
 具体的には、まず、昨年度の調査につづき、法相宗大本山興福寺にて資料調査を実施し、その成果を「古代日本の仏家と漢籍」(社会転型与多元文化国際学術検討会 於中国・復旦大学2005年6月26日~28日)、「平安末期の仏典注釈にみる仏家の語学知識」(第三回大学日本語教育国際シンポジウム 於中国・西安交通大学 2005年8月20日~21日)と題して口頭発表し、現在は論文として発表する準備を整えている。これは、興福寺所蔵の『因明義断』写本の裏書として残された注釈に、漢籍の佚文をはじめとする貴重な引文が見えることに注目しつつ、善珠以降、平安末期の蔵俊へと継承された興福寺の学問の跡を辿る試みである。
 また、興福寺、東大寺図書館、大谷大学図書館、薬師寺などに伝存する善珠撰述仏典注釈書や周辺資料の古抄本の調査成果として、それらの伝本に見える漢籍の引用等を詳細に検討し、その一部を国外、国内の学会にて口頭発表した(「『因明論疏明灯抄』所引の漢籍に関する一考察―『捜神記』の引用をめぐって―」11th International Conference of the EAJS 於オーストリア・ウィーン大学 2005年8月31日~9月3日。「「古代日本の仏典注釈書における漢籍の引用」国際シンポジウム・世界的視野における日中文化 於中国・北京師範大学 2005年9月10日。「『捜神記』と中国古代の伝説をめぐる一考察」説話文学会平成十七年度十月例会 於慶應義塾大学 2005年10月8日)。これらも順次論文化している。
 古代日本の仏典注釈書類は、漢籍の豊富な引用を含み、当時の学術・文化の受容状況やその水準を知る上で重要な資料でありながら、まだ多く未解明の部分が残されている。今後も、引きつづき調査をすすめ、注釈を付した校本の作成をめざし、取り組みを継続していきたい。