表題番号:2005B-060 日付:2008/11/17
研究課題多義語の意味表象とその検索過程
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 助教授 日野 泰志
研究成果概要
 視覚的単語認知における並列分散処理モデルによれば、単語の読みにおける意味符号化速度は単語が持つ形態-意味間の対応関係の性質に依存する。特に、形態-意味間に複雑な対応関係を持つ多義語の意味検索は一義語の意味検索に比べて時間がかかるものと考えられる。実際、反応生成に意味検索が不可欠であると考えられるいくつかの単語認知課題において、多義語の抑制効果や(多義語の)意味間の関連性効果など、この仮説に一致するデータが報告されている。その一方で、この仮説を疑問視する研究者も存在する。
 そこで、この仮説の妥当性を再検討するために、語彙判断課題とカテゴリー判断課題を使って一義語、意味間の関連性が高い多義語、意味間の関連性が低い多義語に対する成績の比較を試みた。語彙判断課題では、2種類の多義語に促進効果が観察されたが、多義語の意味間の関連性の程度は効果を持たなかった。複数のカテゴリーを使用してカテゴリー判断課題を実施したところ、カテゴリーの範囲が広く、判断が難しい場合には意味間の関連性が低い多義語のみに抑制効果が観察されたのに対して、カテゴリーの範囲が狭く、判断が容易な場合には、どのような効果も観察されなかった。判断が容易な場合でも単語の出現頻度効果とカテゴリーの典型性効果は観察されたという事実から、判断が難しい場合に限り観察された多義性及び意味間の関連性の効果は、意味符号化処理を含む入力処理において生じているのではなく、その課題に特有な判断生成の処理において生じている効果であると考えられる。これらの結果は、並列分散処理モデルに基づく意味符号化処理に関する仮説の妥当性に疑問を提起するものであった。