表題番号:2005B-058 日付:2006/03/23
研究課題1960-70年代のニューヨークにおける日本人アーティストの活動に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 助教授 坂上 桂子
研究成果概要
昨年度に引き続き、今年度もまた小野洋子、草間彌生を中心に調査・研究した。二人が造形活動だけではなく、文筆活動をも多く行っていることから、小野については、その中心的分野である詩やエッセイを、また草間については小説作品を分析し、造形芸術作品との関連のうちに、その意味を探った。それぞれ形は異なるがともに多方面にわたる執筆活動において、造形芸術と共通する理念や着想を見出すことができ、小野、草間の求める芸術の意図をさらに理解する一助となった。
 また同時代の中心的作家である木村利三郎が今年度は日本で本格的な個展活動を展開したのを機に、作品の調査を実施した。1960年代来都市をテーマとしつつも、時代により変貌する作品の様相は、純粋に時代的背景、社会的背景と同時に、ニューヨークにおいて、日本人であるがゆえにとらざるを得ない立場、あるいは、だからこそとれる距離感を示しており、興味深いものであることがわかった。近年の版画から油彩画へのメディアの移行、政治的・社会的テーマの導入なども、60年代から70年代にかけて試みた一連の創作活動のなかから表出したものであって、これらの変貌をも含めて、その全体を考察するこにより、この時代に日本人アーティストが経験した問題を浮き彫りにすることができるものと思われる。ニューヨークにおける作品調査を含め、さらに、詳細な整理・分析が求められ、来年度以降の課題としたい。
 そのほか、ニューヨークのジャパンソサエティを中心とする日本人アーティストたちのこの時代における活動・交流を調査した。現在のように、在外アーティストがそれぞれの個人的な活動を中心にする時代とは異なり、1960-70年代においては、在ニューヨークの日本人アーティストたちが、互いに密接な交流をもちつつ、ある種のコミュニティーを形成し、活動を展開していたことがわかり興味深いものであることがわかった。彼等の交流と活動については、複雑、かつ奥深く、本研究の核となる部分と思われので、さらなる詳細な分析と調査が、今後の課題として残された。