表題番号:2005B-057 日付:2006/03/28
研究課題「人生の意味」パラダイムによる社会学的合理性論の理論的検討と歴史分析への適用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 和田 修一
研究成果概要
ここでいう「人生の意味」パラダイムとは、行為論におけるひとつのパラダイムを意味する。パラダイムということばは従来、学術分析における理論的枠組みという意味で用いられてきたのであるが、本研究ではそれは同時に行為主体(エイジェント)が主観的に構成する(自他の)行為の意味解釈の枠組みという意味でも用いられている。こうした論点を意図的に採用する理由は、不確定な将来という状況におかれたエイジェントは、明確な形で定式化された目的関数の極大化を目指して行為するというよりは、自らの所有するパラダイムの中で価値整合的な決定を下していくものだ、と考えるからである。すなわち、不確定性の小さな状況に限って局所的に見れば人々は、追求する目的を達成する上で合理的な決定を行うと見なすことも可能ではあるが、しかしより一般的な行為状況は一定の条件化での目的関数の極大化として抽象化するためには余りにも不確定であり、こうした不確定性を想定することによってはじめて(利害関心とは矛盾することもある理念の追求動機とか倫理・道徳といった拘束要因の社会的必要性といった)社会学的現象を説明しうるのである。わが国の文化的文脈においては、こうした「人生の意味」パラダイムは「生きがい」ということばによって代表される価値、あるいは日本人の精神構造として理解されてきた。しかしながら、生きがいということばの特性やそれが指示すると考えられる日本人の精神構造に関しては、ある種の「哲学的」議論は少なからず行われてきたものの、行為論的な視点からする議論はほとんど皆無である。ましてや、それを上記のごとき行為のパラダイムとして位置づけるという試みはなされたことはない。そこで、本研究では、生きがいという日本人の精神構造を行為論の視点から明らかにするとともに、それを社会学的行為論のパラダイムとして想定したときの、その論理的構造について明らかにすることを試みた。