表題番号:2005B-050 日付:2006/03/03
研究課題中国四川地域仏教美術関係史料の集成と基礎的考察
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 肥田 路美
研究成果概要
今年度は、主に地蔵菩薩像の造像と信仰に関する資料の収集と分析をおこなった。
中国における地蔵菩薩信仰は玄奘の『十輪経』、実叉難陀の『本願経』訳出を受けて始まり、中唐晩唐期に大きく展開した。したがって、北中国での造像活動の退潮とは対照的に8世紀~10世紀の作品が集中的に残る四川地域は、地蔵関係資料の宝庫と言ってよい。そこで、これまでに筆者が実地調査をしてきた広元(千仏崖、皇沢寺)、巴中(南龕、北龕、西龕仏爺湾、西龕流杯池、水寧寺)、梓潼(臥龍山、西龕寺)、綿陽(碧水寺)、邛崍(石筍山、花置寺、盤陀寺、鶴林寺、天宮寺)、蒲江(飛仙閣、仏尓湾、白岩寺、看灯山)、丹棱(鄭山千仏寺、劉嘴)、夾江(千仏岩、牛仙寺)、楽山(凌雲寺)、資中(重龍山、西岩)、内江(東林寺、翔龍山、聖水寺)、安岳(臥仏院、千仏塞、円覚洞、毘盧洞、華厳洞、玄妙観)、大足(北山仏湾、南山、石門山、宝頂山)、忠県龍灘河仏龕の各摩崖造像から、地蔵関係の造像作例を抽出した。これらは、地蔵菩薩独尊像、地蔵・観音並列像、地蔵・観音・阿弥陀の組み合わせ、地蔵・観音・薬師如来の組み合わせ、地蔵十王像、さらに多尊の変相図的構成の龕など、内容と図像形式の豊富なバリエイションを示し、約3世紀間における展開を跡付けることができるとともに、四川地域内での地域的偏差も確認できた。そして、四川盆地東南部の大足北山仏湾には、それらの各図像類型のほぼすべてが揃っていることから、いわば地理的にも年代的にも四川地域の造像活動の終着点的な位置にあることが見えてきた。
地蔵関係のテクスト資料については、『大足石刻銘文録』をはじめ造像題記類からの収集整理と、北宋の常謹が端拱二年(九八九)に撰述した『地蔵菩薩像霊験記』所収の四川地域関係記事の分析をおこなった。
なお、本研究課題は、年度途中に追加採択された科学研究費補助金(基盤研究C)に引き継いだ。