表題番号:2005B-047 日付:2011/04/08
研究課題判断と意思決定の認知・生理過程の解明とそれに基づく社会的処方研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 竹村 和久
研究成果概要
社会的状況における人間の判断と意思決定は、状況依存的であることがこれまでの研究でわかっている。たとえば、経済学における効用理論に基づいて価格政策を行おうとしても、効用理論の硬直性から、消費者の判断と意思決定の状況依存性に対応出来ず、失敗することがある。また、金融政策において、減税政策を行ったにも関わらず消費が伸び悩んでしまうということがしばしば起こっている。さらに、個人の日常生活における意思決定においても、判断や意思決定が社会的環境に依存してなされるために、社会的予測が間違ったり、無効になったりすることがある。しかしながら、これらの社会的環境における状況依存性を、非合理なバイアスであるとかエラー、誤差であるとみるのではなく、系統的な性質を持っていると考えることによって、個人の意思決定行動の説明、予測、そして意思決定の支援などがより有効になると期待できる。さらには、器質障害や心因的障害に起因した、意思決定に関する臨床的障害などの問題を改善するためにも、判断と意思決定の認知過程や脳内過程を解明することは重要である。
 本研究では、社会的状況における判断と意思決定の認知・生理過程を種々の基礎心理実験と調査を通じて解明する。そしてその状況依存性を理論的観点から説明し、予測可能な心理計量モデル、その数理心理モデルを構成し、さらに、この数理心理モデルを脳内メカニズムとの対応において実証的観点から検討した。そうして得られた非常に基礎的な心理学的知見に基づいて,社会的政策や実務的問題解決の処方法を提案することを、最終的な目標とした。
 近年、PET、MRI、NIRSなどの脳活動観察装置の発達に伴って、脳活動をより精密に測定する事ができるようになってきた。この発展によって、認知、記憶、言語など知的機能の研究が進展している。本研究では、NIRS, 眼球運動測定装置などの生理的指標を使用することによって、意思決定の数理心理モデルと脳内メカニズムを表現するモデルを統合し、意思決定のメカニズムを究明することを目的とした。そしてその知見を基に社会調査を行い、消費者問題、社会的リスク問題、臨床的問題などの社会的政策への提案を行うことを最終目的とした。
 具体的には、第1の研究目的は、個人の意思決定の認知処理がどのように行われているかを最新の眼球運動測定装置などを用いて明らかにすることであった。第2の研究目的は、相互作用する個人間の意思決定において、どのような認知過程が生じるのかを最新の過程追跡技法を用いて明らかにすることであった。第3の研究目的は、個人の意思決定においての脳内過程をfMRIなどの手法によって明らかにすることであった。第4の研究目的は、この実証研究から意思決定の心理計量モデルと数理モデルを構成し、脳内モデルとの統合をすることであった。
 これらの研究成果は、国内外の学会や研究集会において公表された。