表題番号:2005B-046 日付:2010/11/16
研究課題環太平洋地域における先史文化・社会の成立に関する民族考古学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 高橋 龍三郎
研究成果概要
 以前からフィールド調査を実施していたパプア・ニューギニアにおいて、8月13日から8月20日の1週間、土器製作に関する民族調査を実施した。フィールドは、パプア・ニューギニアの東南部に位置するミルン・ベイ(Milne Bay)地方の孤島であるヤバム島(Yabum Island)に設定し、渡海して泊まり込みながら、集落の構造や、親族組織、土器製作者の技術などについて観察した。これは縄文土器型式に見るように、技術や装飾における伝統的属性が共有され、一地域に分布する型式として成立するメカニズムを研究するための基礎的調査である。ヤバム島は母系制社会であるために、イーストケープ伝統(Eastcape tradition)といわれる土器の製法技術や文様装飾などが、母から娘へと継承されていた。したがってその親子関係を通じて、その型式伝統の構成要素である、母親のもつ技術・装飾要素が世代を越えて継承されていく様を観察することができた。これは土器型式がなぜ、共通した製作技術、文様要素から成立するのかについて、有効な解答になると予測される。なぜならば、複数の娘達は同じ母親から伝授された土器製作技術・文様を分有するが故に、共通した属性を共有したまま婚姻などにより地域的に拡散することにより、型式的平面分布が形成されるのである。これは型式の基礎的属性の一つである面的な分布の形成要因であると推測された。さらに娘達が形成する土器製作者仲間の交友関係が、土器型式の分有と、面的拡散に重要な背景を提供していることが看取された。母親同士も、かつては娘仲間の集団として、技術や文様などを交流し共有する交友関係を築いた考えられ、しかもその結果、修得された技術総体をそれぞれの娘らに伝授するのであるから、世代を越えて、また親子関係を越えて、同じ技術伝統が継承される背景となる。これは短期間に土器型式が形成される社会的背景を説明するには有効なモデルとなる。これは縄文時代における土器型式成立の根本的背景と考えられる。
 しかし、それでは土器型式は永遠に不変で、技術も文様装飾も変らないことになってしまい、縄文土器型式の実態と異なる。そこで、土器型式が変化する要因を探すことが重要な手立てとなるので、母ー娘関係では説明できない型式変異と、それを生み出すエイジェンシーを解明する必要がある。これについては母ー娘関係とは異質な、「先生ー弟子」関係による技術伝承があることが予測されたが、それを十分に解明できずに、今回の調査は終了した。