表題番号:2005B-037 日付:2006/03/17
研究課題スペイン絵画史と古典古代の遺産-基礎資料の構築と解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 大高 保二郎
研究成果概要
 この1年間は、もう数年来取り組んできた大きな研究テーマ、「スペイン絵画史と古典古代の遺産」のうち、第1次イタリア旅行に焦点を当て、初めてのイタリア滞在を通しての古代美術との出会い、彼の絵画作品に対するその影響を考察した。具体的には、ローマにあるヴィラ・メディチを舞台として古代彫刻への教養を深めつつ、ピンチョの丘の下のサンタ・マリア・デル・ポポロ地区に住む北ヨーロッパからの移住画家たち、プッサンやクロード・ロラン、ジャン・ルメールといったフランス系の人たちを通して純粋風景画への関心にも向かったことを明らかにした。
 いずれの風景画も同別荘内の一隅を写生風に描きながら、古代美術と大きく関わっている。一方は、当時よく知られた美しい古代彫像《眠れるアリアドネ》、通称“クレオパトラ”(現在、フィレンツェ考古博蔵)を中心にすえた構成で描いているし、他方は、彫刻類を展示するための“グロッタ”が折しも工事中であったことを物語るような情景として提示している。従来、この2点に関して最大の問題は、ベラスケスの2度のイタリア旅行中、いずれの機会に描かれたのかという点にあった。
 プラド美術館展(2006年3月ー9月)の図録収載の論文では、現存する二点の風景画が間違いなく第2次イタリア旅行中の制作であること、描かれた場所を同別荘内に特定し、午後1-2時頃と、夕方に描かれたに違いないこと、純粋風景への関心は、古代絵のそれと同様、決して永続的な性格ではなかったことなどを論じている。
 しかし、古代彫刻の買い付けを行うなど、より直接に古典古代とは関係が深い第2次旅行については、今後の調査研究に持ち越された。とはいえ、ベラスケスに関しては、基礎資料がほぼ整いつつあり、エル・グレコやゴヤ、ガウディ、ピカソなど、他の画家たちについても広範に基礎資料の構築を行っていきたい。