表題番号:2005B-017 日付:2006/03/24
研究課題国際裁判における当事者の意思と裁判所の権限の相克に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 河野 真理子
研究成果概要
 本研究では、国際裁判において、紛争当事者がそれぞれの国家としての意思を妥当させるために、裁判制度をどのように利用しようとしているか、また裁判所の側はそれをどのようにコントロールしようとしているかの分析を試みた。
 この研究期間に刊行した成果のうち、共著の英文の著書では、国際司法裁判所で小田滋前裁判官が執筆した少数意見を分析した。この分析の中核を占めたのが、紛争当事者である国家が自国の意思を最大限に妥当させようとしている実体について、司法裁判所がこれを是正するべきであるという内容の意見である。これらの意見の分析を通じて、国際司法裁判所がその健全な司法機能を維持していくために必要な裁判所の判断のあり方を研究した。
 単著の論文のうち、「国際司法裁判所の判決の効力について」という刊行済みのものでは、1.裁判所が出した判決の履行において、紛争当事国の意思がどのような形で表現されるか、2.裁判手続の中で、裁判所の判断の方向性をにらみつつ、当事者間の交渉や裁判所と当事者間の交渉がどのように行われ、それが紛争の解決プロセス全体にどのような効果を持つのかを分析した。その結果、国際裁判では、判決それ自体が紛争解決に寄与するためには、紛争当事国がこれを誠実に履行する意思を持つことが必要であること、また、最終的な判決に至らない事例でも、当事者が裁判手続を利用して紛争を解決しようとする意思がある場合には、裁判所の側もこれを考慮した対応をすることが明らかになった。
 すでに脱稿しており、2006年に刊行よていの2つの論文では、特に国連海洋法条約の強制的な紛争解決制度を中心に、制度上、強い強制管轄権を与えられている裁判所の紛争解決機能とその中で許容されている範囲で自国の意思を妥当させようとする国家の対応を分析した。この結果、強制管轄権を強化することだけでは効果的な紛争解決手続きの実現に必ずしも結びつかないこととが明らかになり、真に国際紛争の解決に寄与するような裁判制度の実現のためにはさらに課題が残されていることがわかった。