表題番号:2005B-005 日付:2006/03/27
研究課題東北アジア地域における農地所有の公的性格の変化と企業的経営展開の対応過程
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 堀口 健治
研究成果概要
①公有・国家計画的な経済の中国における農地転用
中国は、都市の土地は国有、農村は農地を含めて土地は集団所有である。そして農地を転用し造成した宅地や工場用地の土地使用権を売却できるのは、国に所有権が移管されてからである。外資を含めて企業等に長期の土地使用権を売却するには、集団所有から国有に移し変えねばならない。だが国家の計画の下、農地転用が計画的に進むと理解すると大間違いである。
上海の哺東地区は、今では金融、商業の一大拠点だが、もともとは狭い旧上海地区の限界を悟った上海市政府が、哺東地区の集団からすべての土地を買収(集団の構成員である農民は農業上の補償金と移転費で強制的に立ち退かされた)し、転用・造成して、国の内外の企業等に売却したことでできあがった。成功例である。立ち退かされた農民の不満を除けば、団地的な商業用地を造成し、計画的に農地を転用したのである。しかし注意すべきは、実施者は上海市政府という地方政府であること、そして集団所有の農地を「社会主義的に接収」し、市場経済の仕組みで「資本主義的に高く売却」したことである。各地の農民の不満は、この格差と都市にのみ集積される利益、集団幹部の立ち退き費用の未配分などに向かっている。
地方政府にとって、財政上のメリットが大きいこの仕組みは流行し、今では北京の中央政府が強硬に引き締めに入らざるを得ないほどに、開発区を作り農地を転用する地方政府が増加したのである。
今は中央政府の引き締めが強いが、それならば、ということで、集団内で農地を転用し、リースで集団外に貸し出すケースが出てきている。従来も、集団内で村有企業に農地を転用し、工場(郷鎮企業もその一環)を作ることは奨励されてきたし、今も問題はない。だがその転用後の利用を集団の外に貸し出す事例が出てきているのである。
調査した北京市郊外の集団には、農地は全くなく、構成員の「農民」家族とアパートとして借りている北京への通勤者の家族が住むマンション群と、工場群で、土地は利用されている。工場は長期の土地使用権方式を購入した者が建てるのではなく、自ら集団が建てた工場を外部者が数年契約で借り利用する仕組みである。外部者にとって北京市内の土地使用権購入と比べれば安い。ひとつの工場では外国の製薬企業が稼動し、村人が働いていた。ここでは、市場経済の仕組みで「資本主義的に高く貸し付」け、メリットを集団が得ているのである。都市と農村の対立を、うまく解決している。周りの集団がそれを真似しないから成功例なので、真似すれば、更なる虫食い・無計画転用が展開する。
②こうした個別の転用事例について積極的に評価する国務院の研究者の論文(翻訳して報告書に載せた)もあるが、国全体の農地管理の上では、簡単には容認できないはずである。企業展開が進む中で、計画的な土地利用をどう考えるか、同じ問題はベトナムでも発生している。