表題番号:2005A-915 日付:2009/05/31
研究課題WTO(世界貿易機関)紛争解決機関(DSB)勧告の履行確保
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学総合学術院 専任講師 福永 有夏
研究成果概要
 WTO紛争処理制度は、WTO加盟国間の貿易紛争を解決し、WTO協定の履行確保を図るための制度である。この制度の下、他の加盟国(被申立国)の措置がWTO協定に違反しているとの申立を加盟国(申立国)が提起すると、パネルや上級委員会と呼ばれる準司法機関はWTO法に基づき申立の対象となった措置の違法性を審査する。さらに、措置の違法性を認定した場合には、被申立国に対して措置を修正あるいは撤廃してWTO協定に適合させるよう勧告する(DSB勧告と呼ばれる)。近年、被申立国たる加盟国がこのDSB勧告を実施しない事例が散見される。本研究は、DSB勧告の履行を確保するためにWTO紛争処理制度をどのように改善すべきかを明らかにすることを目的とした。
 本研究の成果の一つは、DSB勧告の履行確保に関する綿密な実証分析を行い、それを踏まえて制度改善の提案を行なった点である。WTOには、DSB勧告の履行確保を図る手段として、①パネルや上級委員会によるDSB勧告実施方法の提案、②DSB勧告実施期間に関する仲裁手続、③DSBによるDSB勧告実施状況の監視、④DSB勧告実施措置の合法性についてのパネル及び上級委員会審査、⑤DSB勧告不実施の場合の代償・対抗措置といったものが準備されている。これまでこうした手段を包括的に扱った研究はなかったが、本研究はこれら各手段の相互関係にも注意を払いながら包括的な実証分析を行い、かつ改善のための提言を行なった。
 本研究のもう一つの成果は、単にWTOの実証研究を行うのみならず、国際法学における履行確保に関する過去の研究との関係で、WTOにおける履行確保問題についての理論的検討を行った点にある。特に、環境や人権などの分野において導入されている新たな履行確保の方法と対比させながら、WTO紛争処理制度を通じた履行確保のあり方とその意義について検討した。