表題番号:2005A-901 日付:2006/03/13
研究課題強相関電子系マンガン酸化物における相転移の結晶学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 助手 乗松 航
研究成果概要
 強相関電子系として特徴づけられるマンガン酸化物の中で、層状ペロブスカイトSr2-xLaxMnO4では、その結晶構造の2次元性を反映した電子状態および物性の出現が予想される。我々は、これまでにSr2-xLaxMnO4の結晶学的特徴を調べ、eg電子濃度に対応するLa置換量xの増加に伴い、その基底状態が正方晶相からx=0.15付近で斜方晶相、0.2≦x≦0.5では電荷・軌道整列相へと変化することを報告している。このことは、電荷・軌道整列の無秩序相と秩序相の間に中間相が存在することを示している。そこで本研究では、中間相としての斜方晶相における電荷・軌道状態を明らかにするため、その格子系の応答である結晶学的特徴について主に透過型電子顕微鏡を用いた低温その場観察により調べた。
 本研究では、固相法およびクエン酸共沈法を用いて0.08≦x≦0.25のSr2-xLaxMnO4試料を作製した。得られた試料の結晶学的特徴については、室温から12Kの各温度における電子回折図形および明・暗視野像を透過型電子顕微鏡で撮影することにより明らかにした。
 本観察から、x=0.15試料の250K付近において高温正方晶相から斜方晶相への構造相転移、および斜方晶相の分域構造が斜方晶度の異なる2つのバリアントOIとOIIの交互配列からなることを確認した。そこで分域構造の形成過程を調べたところ、まず高温正方晶領域内に大きさ10nm程度の斜方晶バリアントOI斑点状領域が出現、一方向に配列することにより斜方晶バリアントOIと正方晶領域の交互配列した2相共存状態を生むことが分った。さらにこの正方晶領域は斜方晶バリアントOIIへと変化し、2つの斜方晶バリアントから成る分域構造が出現した。このことは、斜方晶相出現での主秩序パラメータが、自発歪みではなく、軌道自由度に関係したヤーン・テラー変位であることを示唆している。