表題番号:2005A-898 日付:2006/03/15
研究課題非定常時系列に対する高次漸近理論
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 助手 玉置 健一郎
研究成果概要
私は、本年度の特定課題研究助成費により、非定常時系列に対する高次漸近理論に関して研究し、この研究成果の学会等での発表を行った。

数理統計学において、推定・検定問題は非常に古典的なテーマである。独立標本に対する議論はもとより、様々な時系列モデルに対して最適推測、最適検定、最適判別理論が構築されている。これらの最適性の議論は漸近理論であり、一般的に、最適な推定量や検定統計量は無数に構成できる。それゆえ、1次最適なものの中でより良いものを見つけるために、また、近似の精度を上げるために、高次漸近理論が発展してきた。母数の推定問題に関しては、独立標本、定常時系列モデルでは、漸近中央値不偏推定量になるように修正した最尤推定量が2次最適になることが知られている。しかしながら、実証分析の立場から、現実の多くのデータでは、定常性の仮定は制限的であると思われるので、非定常過程の研究は有用である。

私は、局所定常過程という重要な非定常過程に対して、母数の高次の最適推測を構築するために最尤推定量の2次の性質を明らかにした。まず、最尤推定量の分布関数に対する2次までのエッジワース展開を与えた。これにより、一般的に、最尤推定量は漸近中央値不偏推定量ではないことを示し、漸近中央値不偏推定量になるようにバイアス修正した最尤推定量が2次最適となることを明らかにした。さらに、伝達関数が高次の項まで十分に近似できる場合において、初項の時変スペクトルのみに基づく最尤推定量が真の時変スペクトルに基づく最尤推定量と同等になるという高次の頑健性が成り立つ条件を導いた。また、局所定常過程では、スペクトルの構造が時間と共に滑らかに変化するので、最尤推定量の高次の性質が時変量に依存しない十分条件を明らかにし、非定常性の影響を議論した。上記は、母数型推定量に対しての最適性の議論であるが、現在、非母数型推定量の最適性に関しての研究を行っている。