表題番号:2005A-869
日付:2006/03/31
研究課題キラル液晶分子モーターを埋め込んだ機能性擬似生体膜の実現
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 理工学術院 | 教授 | 多辺 由佳 |
- 研究成果概要
- 気液界面に作られたキラルな液晶単分子膜では、構成分子が物質流によって一方向に集団運動をすることを応用し、モーター機能を持った擬似生体膜の製作に取り組んだ。
まず、生体膜のおかれた環境である、イオンを含む水溶液中にキラル液晶薄膜を作ることを試みた。手法として我々は独自に凍結―融解方法を考案、それを用いて液晶状態の薄膜を水溶液中に作ることに成功した。できた膜の構造を見るために高精度な偏光顕微鏡を組み立て、その観察にも成功した。できた薄膜は厚さが数百ナノメートル、初期状態ではほぼ一様な配向を示す。
次に、生体膜中のモーター蛋白と同じく、膜を透過するプロトンによって液晶分子を回転させることを試みた。この目的のため、膜だけを接触面とする2つの区切られたセルを設計・作製し、一方のセルに純水、もう一方のセルに酸性水を入れて、プロトン濃度勾配を膜に与えた。単純な拡散だけではプロトンの単位時間当たり透過量が十分ではなかったため、さらに電解をかけて移動を加速したところ、一定電場を超えた時点でキラル分子が集団回転する様子が観測された。回転の速度はかける電場の強さに比例し、分子回転がプロトン流に駆動されて生じていることが確かめられた。
液晶薄膜の液体中での製作は初めての成功例であり、そのこと自体も意味のあることである。さらに、キラル液晶分子が薄膜状態で、モーター蛋白と同様プロトン駆動で回転することを確認できたことも大きな意味がある。この結果をふまえて、液晶薄膜のナノサイズ化、リン脂質との混合など、ドラッグデリバリーなどにも使える擬似生体膜の製作を今後目指していくと同時に、分子スケールの運動とマクロな回転とを結ぶメソスコピック領域での運動変換について、メカニズムを明らかにしたい。