表題番号:2005A-868 日付:2006/02/27
研究課題解糖型生体酸化の高度モデル系構築に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 鹿又 宣弘
研究成果概要
 ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)およびその環元体(NADH)は、種々の生化学経路において酸化・不斉還元反応を触媒する重要な補酵素である。これらと同等の機能を有する補酵素モデル化合物を開発し, その反応を生体外でシミュレートすることは、新しい効率的な触媒の開発のためばかりでなく、酵素反応機構の解明を行う上でも, 極めて有意義なアプローチであるが、そのような触媒的な生体模倣反応は未だ報告されていない。また,補酵素NADHの酸化・還元モデル反応のうち,生体酸化モデル系に関するメカニズムは充分解明されてきたとは言い難い。
 本研究では,天然酵素反応の生体酸化基質であるシステイン活性型アルデヒドを模倣した含硫黄モデル基質(ヘミチオアセタールモデル基質)を設計・合成し,アルデヒドの生体酸化モデル反応系の構築について検討した。その結果,環状チオラクトール構造を有するヘミチオアセタール誘導体をモデル基質として用いることで,NADモデル補酵素存在下における天然類似の生体酸化型モデル反応が高選択的に進行することを見いだした.さらに,より穏和な条件で反応するモデル反応系の構築を行った.従来は酵素反応条件よりも過剰量のモデル基質,はるかに高温の反応条件を必要とした人工補酵素反応系が,諸条件検討の結果,約2倍の基質を用いる程度で反応が充分進行し,酵素最適温度よりやや高めの50℃でも生体酸化型モデル反応が良好に進行することを突き止めた.また,重水素ラベル実験を通して選択的な水素移動に関する詳細なメカニズムを明らかにした.
 本反応は含硫黄モデル基質による効率的なアルデヒド型酸化反応の初めての例であり,本研究の成果は含硫黄モデル基質が人工補酵素系における酸化還元システムの構築に有用であることを示すものである.